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クメール・ルージュとその余波④(終)

 カンボジアが民主化して以降、国連をはじめとする他国の支援もあり、国土の復興・経済の発展が行われてきた。しかし、未だにカンボジアにはクメール・ルージュの傷痕が残っている。

 最初に「国土」の問題から見ていく。カンボジア各地には大量の地雷が埋められていて、今日も撤去作業が行われている。終戦直後は大量の地雷源があったことで土地開発が遅れた。土地開発の遅れは経済基盤となる都市や工場の建設に影響した。全ての地雷を撤去するにはあと30年~80年かかると言われている。地雷に関してはシェムリアップ郊外にアキ・ラー地雷博物館があり、カンボジアの地雷問題を学べる。私も実際に訪れたが、偶然にもこれまで地雷撤去活動に従事し、地雷博物館を創設したアキ・ラーさんにお会い出来た。(アキ・ラーさんに少しだけ博物館の案内をしていただいた。)

アキ・ラーさん達が回収した地雷の一部
人形は地雷で被害を受けた子どもたちが作成した。

 交通面では歩道や信号の整備が不十分と言える。首都プノンペンの大通りでも警官が交差点の中央に立って交通整備をしている所がある。国が建設・道路整備に大量の予算を充てられないのにはカンボジアの経済事情が関係してくる。カンボジアは経済的に裕福な国ではないのだ。

首都プノンペンの道路

 外務省によれば、カンボジアの主要産業は工業(GDP39.2%)、観光業(〃36.4%)、農業(〃24.3%)の順にGDPに占める割合が高い。観光業に関してはアンコール遺跡群の入場料が生命線であり、他の観光地を開拓し、アンコール遺跡群に依存しない収入を得ることが求められている。観光業こそ高い生産高を有するものの、それ以外の第三次産業の生産高は決して高くない。日本では昭和40年頃、このような産業割合が見られた。当時の日本はいざなぎ景気の真っ最中で、この好景気の終わりにはGDP世界2位に到達した。カンボジアGDPは約3.5兆円(2021年)に対して、当時(1965年)の日本は約32.7兆円てある。つまり同じ産業割合でも生産高は昔の日本の方が高いのである。単純な比較は難しいが、カンボジア経済が依然として発展途上であることが伺える。今日、ポル・ポト政権崩壊から40年以上経つが、農村部では貧困に苦しむ人が少なくない。実に国民の半数は一日1ドル未満で生活している現状だ。トゥクトゥクのドライバーさんも第三次産業(観光業)に携わっているとは言え、やっとの生活らしい(現地情報)。経済格差は徐々に縮小傾向にあるが、教育を受ける機会は都市部・農村部で格差があり、児童労働の問題も残る。
 これらの貧困は、クメール・ルージュによる大量虐殺で最大1/3の国民が失われたことに最大の原因があると考えられる。虐殺により戦後のカンボジアを復興させる労働力が不足し、産業発展が遅れた。また知識層を中心に虐殺が行われた為、子どもたちへの教育を行う人材が不足し、教育が十分に行われず、就ける仕事は限られた。また識字率も低い水準であった。現在もカンボジア国民の5人に1人は文字の読み書きに支障がある。そうして教育を十分に受けられなかった子どもたちが親となり、貧困の連鎖が生まれてしまうのだ。

プノンペン郊外(都市と農村の中間地点)

 最後に現在のカンボジアの政治状況を見てみる。初代カンボジア国王シハヌークは2004年に退位し、息子のノドロム・シハモニが跡を継いだ。カンボジアは立憲君主制で、最大の権力を握っているのは首相であるフン・センである。彼は元ポル・ポト政権の幹部であるが、後年に離反した過去を持ち、1998年からカンボジアの首相を務めている。フン・セン政権は一党独裁体制を敷いて、最大野党の党首ケム・ソカーを逮捕・禁固27年を言い渡したり、独立系メディアを閉鎖するなど独裁を進めている。この先、カンボジアが再び閉鎖的な国家に戻らないか、民主主義をどう受け継いでいけるかが注目される。

 以上のように、クメール・ルージュが起こした混乱は現在に至るまで、カンボジアの国土、経済、生活に影を落としている。今後のカンボジア国政も心配されるが、私たちが支援出来ることは何かあるのだろうか。日本からもNPOによる地域支援が行われていて、大学生でも参加できるプログラムもある。地雷撤去・被害を受けた人たちを支援する募金もある。私は今回カンボジアを訪れて、カンボジアがまだ低中所得国であること、戦後が続いていることを実際に目で見て学んだ。最貧国と呼ばれる国は年々少なくなってきているものの、低中所得国の人々の暮らしはまだまだ苦しい部分がある。
 計4本の記事で主にクメール・ルージュによる虐殺の歴史を解説したが、彼らの余波が残る現在も、一日一日を力強く生きるカンボジアの人たちがいることも忘れてはいけない。私は引き続きカンボジアへの理解を深めていきたい。


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