志村電機珈琲焙煎所@練馬 志村大次郎さん(平6経)
今では、見かけることが少なくなった町の電気屋さん。家電量販店や通信販売の登場などでその需要が下がる中、練馬区春日町には美味しいコーヒーが頂ける少し変わった電気屋さんがありました。立教中学校に入学し、立教大学を卒業した志村電機珈琲焙煎所を営む志村大次郎さん(平6経)にお話を伺う中で、時代の変化やコロナウイルスにも負けない地域の方に愛され続けるお店の魅力に触れることができました。
―「最初はぐちゃぐちゃだった」電気屋とコーヒー屋、異色の統合―
志村 大次郎さんは、1968 年に創業された志村電機の二代目であり、立教大学を卒業後すぐに家業を継いだ。その後、焙煎士の父親を持ち、コーヒーに関して豊富な知識と技術を持つ奥様の麗美さんと共に、2005 年からこの春日町で現在に至るまで、コーヒー屋と電気屋の二つの顔を持つ志村電機珈琲焙煎所を切り盛りしてきた。「最初は、一緒のお店にすることは家内も不安に思っていたし、取ってつけたような内装で売り上げも上がらずぐちゃぐちゃでした」と志村さんは当時を振り返っていた。転機となったのは、2019 年。お店を改装したことで、コーヒーの香りが満ちるアーティスティックな空間へと様変わりした。そこからはコーヒー屋としての売り上げも上がり、雑誌などにも取り上げられ、より多くの方に認知してもらえるようになったという。また、電気屋のお客さんがコーヒーを注文することや、コーヒー目当てできたお客さんに電気屋のサービスを紹介することもあったそうだ。一見、相反する二種の業種だが、地域に根付き生活を支え豊かにするという点では相性が良いようであった。
お話する志村さんのうしろには、素敵な照明が灯る
―電気屋さんで楽しむこだわり抜かれたコーヒー―
店内でいただけるコーヒーは、普通のカフェとは一味違う本格的な自家焙煎珈琲である。麗美さんが厳選した生豆の数々を豆本来の特徴を活かす巧みな焙煎をすることで、薫り高く味わい深い一杯に仕上がる。様々な産地と農園のコーヒー豆が取り揃えてあり、抽出方法もドリップからエスプレッソまであるため、一回来ただけでは味わい尽くせない奥深さがこのお店にはある。実際に、常連さんの中にはお店にあるすべての種類の豆を試す方もいらっしゃるようで、そうしたコーヒーに対してこだわりを持つお客さんの需要にも応えることができるのは志村電機珈琲焙煎所の強みである。また、近年サードウェーブと呼ばれる、より品質の高いコーヒーを求める傾向がコーヒーの消費者の中では高まっており、それと同時にコーヒー全体の消費量の上昇やコーヒーを飲む年齢層の広がりも見られている。そうした影響は志村電機珈琲焙煎所にも広がっており、コーヒーに対してこだわりを持つ20代の男性が非常に増えてきているそうだ。様々な産地のコーヒー豆がずらっと並び、その横で迫力のある焙煎機が元気よく作動している様子はコーヒーオタクにはたまらない景色であるに違いない。
カップには志村珈琲のオリジナルロゴが入っている
珈琲が香る「ラテソフト」は夏にぴったりのカフェメニュー
―コロナウイルス感染拡大や豊島園の閉園、お店のこれから―
豊島園の閉園やコロナウイルスの感染拡大によってお店に悪影響は出たかという問いに、志村さんは予想外の回答をした。「コロナウイルスの感染拡大後、うちは忙しくなっている。巣ごもりをする多くの方がコーヒー豆を買って帰り、お家で楽しむようになった。」と自家焙煎の豆を取り扱う強みを強調した。さらに、志村電機珈琲焙煎所ではお客さんから焙煎具合の注文も受け付けており、こだわりの生豆を自分好みの味にするために遠方からコーヒー通が訪れることもあるという。
豊富な種類の生豆。焼きたてをぜひ試したい
こうしてコーヒー屋としての需要の高まりを感じる一方で、志村さんは電気屋としての需要は減少傾向にあることを認識していた。「今では、家電量販店や通信販売で誰もが家電を安く購入し、簡単に取り付けられるようになった。私たち電気屋が提供するサービスはどうしてもそうしたものに比べ割高になってしまう。」そんな状況を踏まえ志村さんは、「将来的には、コーヒー屋としての面をより強めて、電気屋は縮小していこうと思う」とおっしゃっていた。そうしたことを話す志村さんの様子は一切悲観的ではなく、来る時を明るく待っているようであった。
―「あの部屋のあれ」で伝わる。地域密着二代目の強み―
電気屋として親子二代で培ってきた地域のお客さんとの信頼関係や、お客さん個人の情報量にはどんな家電量販店でも適わない強みがある。妻の麗美さんは、「常連さんのお家の間取りや使っている機種などは記憶済みで、お客さんが口頭で伝える注文でも早急に対応ができる。町の電気屋さんにしかない良いところがたくさんある」と話していた。また、「お家の天井の高さや通路の幅の関係上、一般の家電量販店では無理な家電の運搬や取り付けも受け付けてくれた」という取材時に居合わせた常連の方からの声もあった。町の高齢化により、ネットの扱いに慣れない高齢者の方々が、家電について分からないことがあった時やお店まで足を運ぶことが困難な場合があったとしても、電話一本で駆けつけてくれる町の電気屋さんがあることは心強いことである。余分なものを切り捨て安価にすることが正当化されてきた近年であるが、志村電機珈琲焙煎所にはその「余分」とされてきたものが今もお店を支える重要な要素として息づいていた。家電の買い替えや修理を考えている方は、ぜひ一度、美味しいコーヒーを飲みながら志村さんにご相談されてはいかがだろうか。
学生との3ショット
左:前田凛之介さん(学生カメラマン)
中央:志村大次郎さん
右:宮下理生さん(学生ライター)
志村電機珈琲焙煎所 〒179-0074 東京都練馬区春日町1丁目11−1