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女流棋士 兆 乾さん(平27映身)

 兆乾(チョウ・チェン)さんは現代心理学部映像身体学科を2017年に卒業後、囲碁の女流棋士(二段)として活躍中です。今回は兆さんが指導もしている囲碁サロン「囲碁ファースト飯田橋」にお邪魔して、兆さんの学生時代や囲碁に対する姿勢を伺いました。

※掲載内容は2022年3月時点の情報です。


 ふんわりと華やかなオーラを放つ兆さん。
 彼女の温厚な佇まいの内には、一つのことを追求し続ける強い信念が秘められていました。取材中の兆さんはとても丁寧に応じてくださり、終始、和やかなムードの中でインタビューは進みました。一同が席を立った際には他の人の椅子まで綺麗に整えていらっしゃり、優しい気遣いと柔和な人柄にすっかり魅了されました。

―囲碁を始めたきっかけを教えてください。

「父が元々囲碁をやっていて、3~4歳の頃にはルール程度は知っていました。本格的に学ぶようになったのは6歳の時で、父に碁会所に連れて行かれたのがきっかけです。その頃の先生から『この子は囲碁に向いてるから続けたらどうかな?』と両親に話があったそうで、本格的に囲碁をやってみようと、色々な先生の所に行くようになりました。当時は学校が終わってから寝るまで、1日7時間ほど勉強していました。囲碁が生活の一部になっていたので、囲碁をやらない自分というのがどんな感じか全然わからず、当たり前のようにやっていましたね。」


 幼い頃から囲碁の勉強を継続してきた兆さんは十代半ばまでを関西で過ごしました。師匠の石井邦生先生(九段)と熱意溢れるご両親のサポートもあり、16歳で当時は1年に1枠しかない女流棋士試験を突破し、プロ入りを果たして以来、変わらない真摯な姿勢で囲碁と向き合っています。

―高校生ですでにプロの棋士になっていた兆さんが、大学に進学しようと考えた理由は何ですか?

「十代の頃は毎日ひたすら囲碁漬けの生活で、起きている時は常に囲碁という毎日だったからこそ、囲碁に対して思い詰めるあまり辛いと感じることも多くありました。そのため、他の子が経験している普通の生活を送ってみたいなと、大学に進学することを選択しました。そういった理由だったので、大学入試に関する知識がなく、とにかく面白そうな学部、変わった学部を選んだ結果、映像身体学科に入学することになりました。」

―学生生活はどうでしたか?

「大学生の間はそれまでに比べ、囲碁を勉強する時間は少なくなり、普通の学生さんとそれほど変わらず、サークル活動やアルバイトもしていました。現代心理学部は学べる内容が豊富で楽しかったです。囲碁とは別の経験がしたいという思いから入った写真サークルでは、友達と一緒に武蔵小杉に朝顔を撮りに行ったことがあります。そんなふうに過ごした数年の間に女流棋戦が増え、もうちょっと自分の実力を試してみたいな、頑張ってみようかなという気持ちが強くなったので、卒業後も囲碁の道に進みました。」

大学生活をふりかえる兆さん


―厳しい囲碁の世界では対戦相手に負けて落ち込む時もあるかと思います。そんな時はどのように対処するのですか?

「私の場合、2~3時間ひたすら歩いています。結果の内容について振り返るのではなく、歩き終わってから考えようと。そうすると頭の中が整理されるんです。休みの日も、散歩をしたり自分の好きな本を読んだりと、囲碁以外の時間も大切にするようにしています。これまでに長いときで朝の10時から夜の10時まで続いた対局もあります。実は対局には体力も必要で、趣味でスポーツを楽しんでいる棋士も多くいます。囲碁棋士による野球チームもあったりするんですよ。私は運動はちょっと怠けていまして…これから頑張って体力をつけていこうと思います。」


―幾度となく葛藤や挫折を乗り越えてきた兆さんですが、大学の先輩として、学生に向けて伝えたいことはありますか?

「囲碁と違うことをしたいと大学に入りましたが、もっと色々なことに挑戦したかったという思いが残っています。そのため、学生の皆さんにはもっと挑戦したことのない新しいことにもトライしてほしいなと思っています。それで仮に失敗しても本当にいくらでもやり直しがきくので、自分の好きなことに向かってチャレンジしていってもらいたいですね。」

「高校生までは囲碁が全てだったので、負けると自分の存在意義を否定されるかのように感じひどく落ち込んでいました。しかし、大学生活で広い世界に触れたことで、今はもっと気軽というか、切羽詰まった感じはないというか、少し落ち着いて打てるようになった気がします。十代から二十代始めは、目の前にあるものが全てだと思い詰めて悩んでしまう時があるかもしれませんが、自分が考えるより世界は広いので、気楽に捉えていてもいいんじゃないかと思います。」

学生時代は「とにかくいろんなことにトライしてほしい」


―兆さんは今、囲碁にどのような気持ちで向き合っていますか?

「もちろん公式試合は楽しいというより『何としても勝ちたい』という気持ちです。しかし、それ以外のお客さんとの対局やネット対局をしているときは純粋に楽しいです。」

指導碁では、相手のレベルに合わせたアドバイスを意識しているそう


 大学で様々な領域の学びを深め、ご自身の世界が広がったと感じている兆さん。2022年4月からは全学共通科目の授業で学生の皆さんの視野を広げていくサポート役を担います。ご自身の経験をもとに、囲碁の基本を初歩から誰にでも分かりやすく、親しみやすいお人柄で教えてくださるのではないでしょうか。

学生との3ショット
中央:兆 乾さん
左:学生カメラマン 松田悠花さん
右:学生ライター 西沢縁さん