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Thanks.


 花をもらったのはいつのことだろう。もしかしたら、人から手渡しされたのは今回が初めてのことかもしれない。特に詳しいわけでもなく、ただ名前も知らない黄色い花をぶら下げて夜の闇の中を1人歩く。

 ここ最近は夜に書くことが多くなったせいで、情景もまるで同じような調子、一辺倒になっているのを許してほしい。少なくともそれだけグッドなナイトが続いているんだ。しばらくは静かな夜のシリーズということにして、きみもその夜に吹く季節の風に身を任せてほしい。この話を聞いてほしい。

 帰り道、家の近くの駅が見えてきて、僕は身を交わし、乗っていた電車からこぼれ落ちるようにしてホームに着地を決める。置いてけぼりを喰らわないように先を急ぐ、改札を通り抜ける。

 気がつくと、後ろには酔っぱらいが歩く千鳥足。

 たまたま道すがらが一緒なだけなのだろうが、なんとも気に障ったので、後ろを見ないようにする。

 街の中の窓ガラスに映る自分の姿。後ろにはちょうど自分より一回り大きい影。不安とか気の迷いのようなものが、匂いに乗って漂ってくる。

 サッカーを1人でやってきたことはない。たしかに、全ての人には与えられたポジションがあって、それぞれにはやるべきことがあった。しかし、隣りにいる敵、味方までをも無視して通れる道はない。そこにボールは転がっていない。

 フットボリスタならば、いつも忍び寄る影と葛藤して、日々を生きるのもフットボリスタでなければならない。見え透いた嘘も受け入れ、摩擦を繰り返しても当初の気概をすり減らしてはいけない。ピッチに立てばいつでも戦える状態だ。

 そこまで意固地になってまで、自分のプレーに何を懸けているのだろうか。

 後ろの影が徐々に近づいてきているのを感じている。次第に意識することもやめて、重なって、自分と完全に一致するまでの全てを受け入れる。

 一時は身震いするような思いもあったが、すっかり馴染んでしまって、今では恐れていたものが何だったのかも忘れている。

 プレーヤーはクラブに魂を売るわけではない。しかし、僕はこいつらとなら心中できるという思いでピッチに立ち、試合に臨む。

 いつまでも意地を張って、揺るがない感情を捨てきれなくても、この試合にだけはこのチームで勝ちたい。この仲間のために走り、誰かのゴールのためにパスを捧げる。

 自分との闘いに明け暮れていた時代は、まだ手に入れてもいない明日に向かっていて、明日は近くて遠く、辿り着かない。

 気がつくと、この身も犠牲にして向かう先は仲間のいる場所で、それは今ここにしかない。試合が終われば感謝する。今日も。

 日々は取り戻せないよな、謝らなきゃいけないこともあるし、いつかはサッカーどころじゃねえなんて日もありました。それでもここまでやってこれたのは君たちのおかげでした。拍手。

 そんな日々も終わってしまって、今は新しい毎日への期待もあるのだが、せっかく手に入れた感情を持て余しそうである。せっかくの最後の夜に、自分の心に決めた意志に一文字も当てられない。

 最後の夜に、誰かが言った一言も思い出せない。

 花をもらうのは嬉しいことだな。今はありがとうの一言さえ必要ないかもしれない。思い出は思いにも出さず、そのままに。

 いつまでも留まっているわけにはいかないし、この手には有り余るほどにも思えたので、代わりに僕も感謝の意を込めてこの花を手向けよう。

 積み重ねてきた時間、それから新しい日々に。

 Thanks.



#サッカー
#FOOTBALL
#Thanks .
#花を手向ける


スペイン1部でプロサッカー選手になることを目指してます。 応援してくださいって言うのはダサいので、文章気に入ってくれたらスキか拡散お願いします! それ以外にも、仕事の話でも遊びの話でもお待ちしてます!