山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第八十六回 リフは地球を救う特集
リフとはリフレイン、つまり“繰り返す”の略称でありますが、ことロック界においてリフとは“ギターリフ”のことを指します。その歴史は古く、チャック・ベリーがルイ・ジョーダンのピアノフレーズをギターで弾き直したのがおそらく最初期のギターリフでありましょう。それから60年余りが経った今も、世界中の数多のギタリストたちは、この“ギターリフ”の開発に躍起になっているのです。
ギターリフといえばワタシ、青春時代の思い出がありまして、あれは高校一年生のときでしたかねえ、その頃ワタシはロック音楽を聴き始めたばかりで、一体何から聴いていいのかわからなかったんですよ。
お小遣いもあんまないし、CDアルバムは買えて月2枚。
サブスクどころかYouTubeすらギリギリなかった時代です。
そんなときロッキンオンの『世界を変えた名ギターリフ50』みたいな記事を目にしまして、『おお! これに載ってる曲を聴けば間違いないんじゃないか!』と思ったんです。で、畜生の浅ましさか、まず一位のやつから聴いてやろうってんで、パッと見たら、ローリング・ストーンズさんの『サティスファクション』が載ってたんですよ。
そこに書いてある言文は『ロック史を変えた永遠の名曲』だの『革命的なギターリフ』だの、どれもこれも魅惑的なものばかりで、当時15歳だったワタシは、『ふむふむ、ローリング・ストーンズというのは名前しか知らないが、そんなに凄いのか。聴いてみよう』と思ったんですね。
で、当時、彼らの活動40周年を記念した『40リックス』って二枚組ベストが出てたんで、それの輸入盤を買ったんです。で、スピーカーの前に座って胸をときめかせながら、件の『サティスファクション』を再生したのですね。
デッデー、デデデー。デデデデデ。
『ほう、こういうイントロから始まるのか』
デッデー。デデデー。デデデデデ。
『革命的なギターリフとやらはまだ始まらないのかしら』
デッデー。デデデー。デデデデデ。
『うーん、焦らすなぁ。そろそろ入ってくれてもいいのに』
そう思っているうちに、いつのまにか曲は終了していました。ワタシは『あれ?』と思い、もう一度再生してみましたが、やはり革命的なギターリフとやらを見つけることは出来ず、曲は終了してしまいました。ワタシはそれを何度か繰り返した結果、ひとつの重大な事実に気づいたのです。
まさか……この……“デッデー。デデデー。デデデデデ”がロック史を変えた革命的なギターリフだとでもいうのか!!!????
その事実はあまりに重すぎた。認めたくなかった。こんなギター歴一ヶ月のワタシでも耳コピできるような、超単純でクソショボいギターリフが、ロック史を変えた革命的なギターリフだなんて。
そしてさらなる試練がワタシを襲いました。
ローリング・ストーンズ……全然良くねえ!!!!!!!!!!!!!
曲も良くないし音もショボいし、何がカッコいいのかワタシには全く理解不能でした。とはいえ、高校生の経済事情において二枚組アルバムというのはあまりにも大きく、『あ、好きじゃねえわ』とポイしてしまうことは出来ませんでした。これのカッコよさを理解出来なかったら、これを好きになれなかったら、全てが無駄になってしまう。
その日からワタシの修行が始まりました。学校から家に帰ってくるやいなや、毎日毎日ローリング・ストーンズを聴きまくったのです。全然良くないと感じつつも、声出していかなきゃ負けだと思い、『超かっけーーーーー!!!!!』などと叫んでいたのです。
メンバーのカッコいい写真を見て『こんなにカッコいい人たちがやっている音楽がカッコ悪いワケがない』と思い込んでみたり、超爆音で再生してお母さんに怒られてみたり、苦しい修行の日々は続きました。
映画でも音楽でもなんでもそうですが、『好きになると決めて好きになる』というのは精神力が充実している若いうちしか出来ません。ワタシはローリング・ストーンズを好きになるんだ。ローリング・ストーンズを好きな人になってみせるんだ。という強い決意のもと、ワタシは苦しい修行を続けました。あの頃ほど家に帰るのが憂鬱だった時期はありません。『あーあ、また帰ったらローリング・ストーンズか……』と思っていたのですから。
しかしある日、転機は訪れました。その日もワタシはいつものようにローリング・ストーンズを聴いていたのですが、何かが違うのです。
『ん? え? これは……まさか……』
スピーカーから流れ出している音楽はいつもと同じです。ですが、それを受け取るワタシのマインドが変わっていたのです。ワタシはミック・ジャガーのヴォーカルをセクシーだと思っている自分に、キース・リチャーズのギターをワイルドだと思っている自分に気づいたのです。ワタシは、何度も繰り返した言葉を叫びました。それは今までは嘘でしたが、今度は本当の、本当でした。
『超かっけーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!』
ワタシはローリング・ストーンズを掴んだのです。ローリング・ストーンズを好きな人になれたのです。嬉しさのあまり、ワタシは畳に突っ伏してポロポロ涙を零しました。
『ううう……おうおう……』
ワタシは、少なくとも平成生まれの人間で、『ローリング・ストーンズは初めて聴いたときからカッコよかった』と言うヤツを信用しません。だっていいワケねえもん。ワタシがあれだけ苦労してようやく掴んだというのに、一発目からガツーンと来られてたまるかよって話です。むしろ『ローリング・ストーンズって全然良くないよね』って言ってる人の方が100倍信用できますね。だってワタシもそう思っていたから。三万払って、北海道から遠路はるばる東京ドームにローリング・ストーンズの来日公演を観に行った程度にはファンですが、『曲べつに良くないじゃん』とか『クソバンドじゃん』って言ってる人の気持ちはめちゃくちゃよくわかります。
僕はお小遣いを無駄にしたくない。って理由でしたけど、たとえばね、自分がカッコいいと思ってる人がカッコいいと言ってるものをカッコいいと思える人間になりたくて、必死に背伸びして映画観たり音楽聴いたりする『修行』は、端的に言って『感性の開発・拡張』です。無理して観なくていいよ。とか、無理して聴かなくていいよ。と人は言いますが、無理してでも観たり聴いたりするのって、そのあとの人生に大きく関わってくるんですよ。自転車しか乗れないという人と、スケボーにもバイクにも車にも乗れるという人の生きる世界がまるで違うように、“好き”の幅を広げるだけで、世界は大きく変わります。好きになると決めて好きになろうとする行為が、いつか必ずあなたにとんでもない景色を見せてくれます。
まあまあまあ、長々とギターリフよもやま話を開陳してしまいましたが、山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第八十六回は“リフは地球を救う特集”と題して、一発目から『超かっけーーーー!!!!!!』ってなれるような、ハードでソリッドで超クールなリフを、皆さんと共にエアギターしながら耳を傾けていきたいと思います。みんな、ついてきてね!!
一曲めは、グランド・ファンク・レイルロードで『ランニン』。
超かっけーーーーーー!!!!!!!!!!!
これを超かっけーーーーーーーーー!!!!!!!!!! って思わない人は今すぐブラウザバックして金輪際僕のnote読まないで下さい!! 時間の無駄なんで!!!
こんなこと言いたくないけど、これで滾(たぎ)らない奴はダメですね。何も分かり合えないですよ。これ聴いてノースリーブのGジャン着て草原を駆け抜けたくならない奴は人としてどうかしてる。人間性を疑うね。
グランド・ファンクはやるよ。悪いけど相当やる。(は?w)
だってこのアルバムの邦題『ハード・ロック野郎(世界の女は御用心)』だぜ!!? もうなんか、詩だよね。ポエトリーだよね。相田みつをのすべての詩よりこの邦題の方が俺にとっては価値がある。生き様ですよ。
デネ。何がデネだ。これ74年のアルバムなんですけど、『70年代はこれがカッコよかったんだな〜。時代だな』とか言ってるそこのお前!!
言っとくけど70年代当時からこのバンド『クソダサい』って酷評されてたからな!!!
このダサさは時代越えてんだよ!!!!!!!
時代を超えたカッコよさ。というのはよくあるけれど、時代を超えたダサさ。というのはほとんどない。どれだけダサい表現も時を経たら『一周回ってあり』とか『逆におしゃれ』みたいな評価をされてしまうから。
しかし、グランド・ファンク様はそんなショボい価値体系とは無縁なのです。
『ダッサ!!! ……いや待て!! カッコいいかもしれない!!!! うん、カッコいい!!! 超かっけーーーーーーーー!!!!!!!!!!!』ってなるのがグランド・ファンクなんですよ。
爆笑しながら『超かっけーーーーーー!!!!!!!!』って叫べるのがグランド・ファンクなんです。
僕、『超かっけーーーーーー!!!!!!』って爆笑しながら叫べないロックってあんま好きじゃないんですよ。シャンペインさんもラッドウィンプスさんもキングヌーさんもめちゃくちゃカッコいいと思いますけど、グッとは来ないんですよ。カッコ良すぎるから。ただただカッコいいものって僕あんまり惹かれないんですよ。
ちなみにこのジャケ、ボディビルダーの身体にメンバーの顔写真をくっつけたやつなんですけど、今をときめくアクション俳優のシュワちゃんことアーノルド・シュワルツェネッガーが参加してるんですよ。腹筋の形状的にたぶん右端かな? 何でわかるの? 気持ち悪っ。
シュワちゃんといえば、ルーク・ミリオンのシュワちゃんが筋トレしまくってるMV死ぬほど面白いですよ。
二曲めは、モントローズで『ロック・キャンディ』。
まじくそかっけーーーーーーー!!!!!!!!
イントロのドラムからもうドキドキが止まらねぇ。
これデビュー・アルバムなんですけど、のちのヘヴィ・メタルの先駆となる爽快さと疾走感を持った、先進性の高いハード・ロックをやってます。これ1973年のアルバムなんですけど、この感覚はそうですなぁ、軽く7〜8年は早かったと思います。ミキシングとか含めて1973年の音じゃない。1980年の音。褒めてんのかそれは?(笑)。
ギタリストのロニー・モントローズはヴァン・モリソン、ボズ・スキャッグスなどのセッション・プレイヤーとして活躍したのち、エドガー・ウインター・グループに参加し、一躍有名になります。そしてギターが印象的なインスト曲『フランケンシュタイン』で全米一位になった直後にバンドを脱退し、このモントローズを結成したのです。
ちなみにヴォーカルはのちにヴァン・ヘイレンで名を馳せることとなるサミー・ヘイガー。
しかしこのバンドは全然売れることなく、アルバム四枚で解散してしまいます(1987年に再結成してアルバム一枚作ってますが)。だってファーストの邦題が『ハード⭐︎ショック』だもん。ダサすぎだもん。そりゃ売れねえよ。名前に⭐︎つけて売れたのはつのだ⭐︎ひろとダイヤモンド⭐︎ユカイだけだよ(関係ないw)。
三曲めはJODOで『アイム・スティル・ヤング』。
まじくそかっけーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!
英国産B級ハード・ロックとして好事家に有名なJODOの唯一のアルバムでごぜーます。1971年作。ジャケがいかにもB級って感じね。でもB級イコール二流ではないよ。むしろ超グレートだし何なら俺の中ではハンブル・パイとかと並ぶね。
あらゆる文献に『素性は謎に包まれている』と記されているバンドですが、まあまあ実際はそんなこともなく、現在となってはほぼ大体の目星はついてます。ついてますが、とくに有名なメンバーとかはいないです。いないですが、ヴォーカルがアール・ジョーダンっていう黒人の方なのね(ソロも何枚か出してますがそっちは割とファンク)。ヴォーカルがブラック・スキンのハード・ロック・バンドってあんまいないですよね。しかもソウルフルとかファンキーとかそういう路線じゃない。この頃の70年代ロックマナーの歌い方してる。すげえクール。中音域が良く出てるバッキバキに歪んだギターと、ツェッペリン並みに重たいリズム隊も最高。
他にも二本のギターを生かした鋭角的なリフがバシバシ出てくるんで、ハードロック野郎のみならず、ギター小僧、元ギター小僧も必聴のアルバムですゾェ。ギンギンに勃起できること請け合い!!!!
四曲めはキャプテン・ビヨンドで『メスメリゼーション・エクリプス』。
なんまくそ(北海道弁で“超ウルトラ最強”ぐらいのニュアンスです)かっけーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!
ジャケも最高!!!!!!!!!
完全にマーベルのめっちゃ強いやつのビジュアルじゃん!!!!!!!!!!!!
このバンドは、元ディープ・パープルの初代ヴォーカル、ロッド・エヴァンスがカリフォルニアに渡って、アイアン・バタフライの元メンバーや、ジョニー・ウィンター・アンドのメンバーなどの腕利きプレイヤーをかき集めて結成したバカテク集団です。
プログレmeetsハード・ロックといった風情のサウンドたるや、超ドラマティックかつ不条理。変拍子や唐突な転調、超展開がばんばん出てきます。それでもキャッチーさを失わないのは、演奏がとにかく“魅せる”からでしょう。ヴォーカルもギターもベースもドラムも全員最高。メンバー全員が主役って感じで見せ場満載、まさにアベンジャーズさながらです。
アルバム四枚出てるんですけど、まずこのファーストから聴いてみてください。マジでカッ飛びます。宇宙感じちゃいます。
はい、というワケでいかがでしたでしょうか、山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第八十六回 リフは地球を救う特集、そろそろお別れのお時間となりました。
ギターが弾けようが弾けまいがそんなことはどうだっていいんですよ。
いいんだぜ、楽器が出来なくたって、バンド経験がなくたって、部屋で爆音でハードロック聴きながらエアギターかましていいんだぜ。
いや、むしろかましていくべきだ。
今日紹介した曲を聴いてエアギターの一つもかませないようじゃお里が知れてるぜ、BABY。
いいか、いつも、どんなときだってROCKするんだ。
お前の仕事が何だって関係ない。
コンビニでバイトしてるならコンビニバイト界のロックスターになれ。
医療事務なら医療事務界のロックスターになれ。
専業主婦なら専業主婦界のロックスターになれ。
さあスタジアムに詰めかけた満員のお客がお前の出番を待ってるぜ。
ぶちかませ!!!!!
愛してるぜベイベーーーーーー!!!!!!!!!!!!!
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