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山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第112回 あなたが多分知らないオブスキュア・ソウル特集


はいどうも。

残暑がまだまだ続いておりますがいかがお過ごしですか?

僕はずっとかかりきりだった原稿がようやくケリついたんで、今月は映画館に結構行きました。

公開前からずっと心待ちにしていた作品や、思いつきでブラッと行った作品まで色々観ましたが、大変充実した時間を過ごすことができました。

以下、簡単な感想とともに、鑑賞した作品をカンタンに振り返ってみます。


・風の谷のナウシカ

ものすごく久々に観た。

“久石譲が久石譲として完成される直前の映画”であり、テクノ〜ニューウェイヴ系のアプローチが多いということに初めて気づいて驚いた。


・千と千尋の神隠し

ものすごく久々に観た。

目にもマインドにも突き刺さる驚異的名作。

こんな作品が日本歴代興行収入ぶっちぎり1位であるという事実に改めて驚嘆する(ちなみに“君の名は。”は4位である)。

とにかく全編、画面の端々に至るまでイマジネーションが爆裂している。

『宮崎駿はサイケデリックス(いわゆる幻覚剤)の経験があるか?』という議論において、ジブリの中でもっとも俎上に載ることが多い作品であろう。

ちなみに僕は『やっていない』にベットしている。


・waves

好きではないけど新しかった。とくに音響が。

音響がスゴい映画、というと近年では『ガールズ&パンツァー劇場版』とか『レヴェナント』とか『ダンケルク』とかあったけれど、この映画はそれらの作品とはまた違って、なんというかクラブっぽい音作りになっていた。低音の鳴りとか。

監督/脚本のトレイ・エドワード・シュルツはリチャード・リンクレイターとフランク・オーシャンの影響をかねてから公言しているけれど、それが随所にあらわれていた。


・鬼手

2014年、韓国で大ヒットした囲碁アクション映画『神の一手』のスタッフが再集結したスピンオフ。

囲碁アクション映画ってなんだよ、と思う人も多かろうが、本当にそうなのだから仕方ない。

賭け碁の世界に生きる孤高の天才棋士を描いた作品なのだけれど、オカルト戦法を得意とする占い師が出てくるわ、列車が迫り来る鉄橋の上で碁を打つわ、ケレン味たっぷりな対局シーンと並行して、バキバキの筋肉を持った男たちが激しく殴り合う肉弾戦も盛り込まれているのだ。

囲碁パートも格闘パートもアイデアに満ち溢れていて、とにかく狂ったように面白い。

『嘘喰い』が実写化されるとのことだが、ぜひこのテンションで作って欲しいものだと思う。


・音楽

大橋裕之原作、坂本慎太郎主演(!)の、ユルくもアツいアニメ映画。

音楽モノというのは観ていて気恥ずかしくなるものがけっこう多いけど(それも青春の側面ではあるのだが)、これはそういうイタさとは無縁で、全編に静かなリアリティが漲っている。

バンド経験がある人ならきっとどなたも、『あ〜こんなんこんなん』と共感されるのではないかと思う。


・映画ドラえもん のび太の新恐竜

ぜってぇ負けねぇ、マジナメんな。

という謎のオラつきを発しながら観に行ったが三回泣いた。

これほどツッコミどころ満載なのに泣かされてしまう、というのは凄いことである。

ドラえもんが『未来を変えるのはいけないことなんだ!』と叫ぶシーンでは、“お前どの口でそれ言うんだよ”と思ったりするのだが、それでもしっかり泣かされた。

ミスチルが流れ出すシーンなどはほとんど嗚咽していた。

完敗である。

考えてみるとドラえもん映画というのはかなり稀有なフォーマットで、キャラの相関図や世界観、『もしもボックス使えば全部一瞬で解決するじゃん』とか野暮なツッコミはしないというところまで、観客のリテラシーが完全に形成されていることを前提に制作されているゆえ、マーベルにもピクサーにも出来ない物語の構築が可能なのだ。



・真夏の夜のジャズ

1958年のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルの様子をおさめた映画の4Kリマスター版。

『ジャズとか全然知らないし興味ない』という人も、『この映画もう100回観た』という人も、最高に愉しめること請け合いの、すんばらしい逸品である。

アニタ・オデイの圧倒的な歌唱、チコ・ハミルトンの滴り落ちる汗、ルイ・アームストロングの溌剌とした狂気……濃ゆすぎるジャズ・レジェンドたちによる名演目白押し。

チャック・ベリーの音作りがハチャメチャなところ(ギターの音がとにかくクソデカい)なんかも、『PAスタッフがロックンロールに疎かったのかしら』などと邪推できて愉しい。

多幸感に満ちた観客や、随所に差し込まれるヨット・レースや移動遊園地の映像なんかも“古き良きアメリカ”をイキイキと活写している。

野外フェスが軒並み中止となった今年の夏こそ観るべき、グレイトな一本。


・人妻くのいち THE MOVIE  〜毒母乳逆噴射〜

そんな映画はない。



とにかくどれも面白かったです。自信をもってレコメンします。

気になる作品がありましたらぜひ劇場でご観覧くださいませ。



はい、つーわけで今日は“あなたが多分知らないオブスキュア・ソウル特集”です。

そもそもオブスキュアって何ぞ? ってとこからカンタンに説明しますと、『はっきりしない/あいまいとした/人目につかない/世に知られていない』という意味を持つ英単語でありまして、ここ五年ぐらいの間に音楽業界で盛んに用いられるようになった言葉です。

すげえざっくり言うと、一般的にかなり無名だし情報もほとんど存在しないけど超イイよね。って音楽のことです。

そういうオブスキュアなソウル・ミュージックを今回はご紹介していこうと思いますので、みんな、ついてきてね!





一曲めは、ローレン・ラヴァリスで『キー・トゥ・アワー・ラヴ』。

(おそらく)デトロイトの女性ソウル・シンガー、ローレン・ラヴァリスの唯一のシングルであります。

大変レアなシングル盤でありまして、好事家の中ではわりかし有名な盤です。

粗い音質とガチャガチャした演奏が耳を惹くディープなスウィート・ソウル・ミュージックですが、これなんと信じがたいことに1984年リリースの楽曲です。

1984年つったらMTV全盛期、プリンス、マドンナ、マイケル・ジャクソンがブイブイ言わせてた時代ですからね。

デジタル・サウンド化が進んで、全体的にオーヴァー・プロデュースのきらいがあったような、そんなデコレイトな時代にこんなホームメイドな楽曲がドロップされたっていうのは、まさに脅威としか言いようがないと思うんですよ。

なんでも検索すれば、どれだけニッチな盤でもある程度の情報は取得できてしまうこのご時世でも、このシングル盤の具体的な詳述はどこにもありません。

まさにミステリアス、これぞオブスキュア。な、素晴らしい名曲であります。



二曲めは、ロドニー・ジェローム・ケイトで『ザ・エッセンス・オヴ・ラヴ』。

フィラデルフィア出身のミュージシャン、ロドニー・ジェローム・ケイトが唯一残したシングルであります。

これも“リリース年を見て目ん玉ひん剥く”系のブツでありまして、なんと1986年の楽曲であります。

にっちもさっちもどうにもブルドック、何もかもがマンモスケバくて良くも悪くもゲロ豪快でバカ破天荒だった時代に、こんな音を鳴らしていた人がいたというのは本当にものすごいことです。

ディレイの効いたジャジーなギター、寄り添うような繊細な鍵盤、フィルをほとんど排除したドラム、フィーチャリングのシンシア・サンダース・ディクソンなる女性シンガーによる歌声と、どれをとってもメロウの極地。

とにかく切ない。

切なすぎます、あまりにも。

おそらくロドニー・ジェローム・ケイトが全部の楽器を演奏してると思うんですけども、とりわけギター・プレイの素晴らしさときたら筆舌に尽し難いものがありますね。

涙ちょちょ切れもんの大名曲です。



三曲めは、ユニヴァーサル・マインズで『ア・チャンス・オヴ・ラヴ』。

ユニヴァーサル・マインズなるソウル・バンドが、70年代にニューヨークのローカル・レーベルからリリースしたシングルですね。

ランタンパレードがサンプリング・ソースとして使っていたので、それで知っている人もいると思います。

これも好事家の中では人気のある盤ですけども、ネットの海をくまなくディグってみても詳述はどこにも見当たりません。

正確なリリース年すら解らない。

泣きのギターが炸裂する、高揚感に溢れたパワフルなスウィート・ミュージックです。



四曲めは、ザ・ハズバンドで『開眼前夜』。

最後に日本のバンドを紹介して終わろうと思います。

もうこれはオブスキュアの極北っつーかね、ほんっっっとおおおおおおおに謎に包まれた、超絶無名の大名盤です。

80年代初期、東京で活動していたザ・ハズバンドなるスリーピース・バンドの唯一の盤なんですけれども、それ以外はどれだけネットの海を潜ってみても何の情報も得られません。

サブスク配信はおろかCD化もされておらず、再発なんかもおそらく無縁。

レコードもたった50枚しかプレスされてないそうです。

これはマジで凄まじいですね。

言っちゃえばニューウェイヴ系のファンク・バンドなんですけれども、当時のバンドと比較してみても何とも似てないのよ。

僕は『グミ・チョコレート・パイン』を高校時代に読んで人生が狂ってしまった人間なんで、80年代の日本のロック史は少なからず知っているつもりですけれども、INUとも、EP-4とも、YBO2とも、タコとも、有頂天とも、じゃがたらとも、ゲルニカとも、変身キリンとも、突然段ボールとも、カーネーションとも、新東京正義乃士とも、ミン&クリナメンとも、マサ子さんとも、どれとも文脈がハッキリと違うのよ。

しいて言うなら、大村憲司さんとポンタさんが在籍してた頃の赤い鳥(合唱曲のアンセム『翼をください』で有名なグループです)が近いかな、って感じですけどね。

このひとたち、根っこの部分にあるのは恐らくジャズだと思うんですよね。『虹と鈴』って楽曲に顕著ですけども、フレーズとか楽曲構成もそうだし、クスリ臭さとか、ウェットだけど茶目っ気のあるガロ的な言語感覚なんかも、70年代の日本のジャズメンたちがサイケとかロックとかファンクに近接したときのイキフンに近しいものがあります。

歌だけ抜き出してみるとアシッド・フォークっぽいんですけど(“五つの赤い風船”とかね)、演奏とかミックスがブチ飛ばしまくりなんですよね。あえてのチープ感とかも凄すぎます。

これは本当に素晴らしいレコードですね。

一曲目のインスト・ナンバー『開眼前夜』から雰囲気抜群です。

タイトルも鬼カッコいい。

情報求む!!!


ハイ、というワケでいかがでしたでしょうか、山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第112回 あなたが多分知らないオブスキュア・ソウル特集、そろそろお別れのお時間となりました。

次回もよろしくお願いします。

お相手は山塚りきまるでした。



愛してるぜベイべーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!






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