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"Speed of Faith”によせて


 先日、"Speed of Faith” というイヴェントに行ってきた。下北沢5会場のオールナイト・サーキットで、主催は今をときめくロック・バンドのthe hatchである。
the hatchは耳目の肥えたウルサ型のリスナー集団でもあるので、相当エッジィかつヴォリューミーで雑種的/混血的な一夜になるだろうと予測はしていたのだが、まぁ控えめに言っても『最高の夜』だった。

 最高の夜というのはえてして不思議なことが起きる。バイブスによって磁場が歪むからだ。

 たとえばこの日、わたしは友人と会場周辺を歩きながら、“バキ”と“オレンジレンジ”の話をした。そうして10分ほど歩いてライヴハウスへ戻ってくると、わたしの長年の友人であり同居人でもある金子声児が、“バキ”に出てくる『トリケラトプス拳』の構えで立っており、そしてなんとオレンジレンジの『以心電信』を歌ったのである。

 これぞ磁場が引き寄せたミラクルの好例だ。こんなミラクルが平然と起きてしまうぐらい、この夜はヤバかったのだ。

 イヴェントはとても充実、というかハッキリと過充実していて、おかげで見逃してしまったアクトもたっくさんあるんで、あんまエラそーなことは書けないのだけれども、いっけんジャンルも活動領域もまるで違いそうな出演者陣にはひとつだけ共通項があった。

 それは『フレッシュ』である。

 どのバンドもどのDJも、まったくフレッシュ極まりなかった。

 フレッシュというのは“爽やか”とか“元気いっぱい”みたいなことではない。『どうしてこれが出来ちゃったんだろう?』と思わず首を傾げたくなるような、痛快な異和/強烈な斬新さのことだ。

 フレッシュは我々に生を実感させ、精神深部を突き動かし、変化を促す。

 わたしはこの夜、巨大な生肉のカタマリのような、物質感あふるるフレッシュさを、浴びて浴びて浴びまくった。で、その結果、首と腿を痛めたわけである(踊りすぎて)。


 だもんで、どれが良かったとかヤバかったみたいな物言いはしたくないのだが、個人的に打ちのめされたバンドがみっつある。BANGLANG、carthiefschool、GLANSである。彼らはみな北海道出身、つまりわたしとは同郷の士であり、これまで何度もライヴを観ているし知らない仲でもないのだが、見違えた変貌ぶりに心底オドロいてしまった。
おそらく出演者の中でも最も若い部類に属する彼らのライヴは、情熱的かつ野心的で、ひらめきに満ちており、わたしを存分にときめかせた。


 まずBANGLANG。ひとことで言うと“ライヴハウスらしい”ロック・バンドだった。初めてライヴハウスに行ったときの、背伸びしているような、なんだか悪いことをしているような、あの胸の高鳴りを久方ぶりに味わった。観客の熱狂もあいまって、まるで『スメルズ・ライク・ティーン・スピリット』のMVに迷い込んでしまったかのような気分だった。
ミスやトラブルすら“カッコ良い”と思わせる風格があり、90sオルタナ/グランジに軸足を置いているであろうサウンド・デザインの豊かさも凄い。横ノリの気持ちよさを知っているバンドの縦ノリは深い。ジャズ・ドラマーが叩く8ビートが芳醇であるのに似ている。リハスタにこもってひたすら練習だけしていてもこの奥行きは出ないだろう。クラブとか相当行ってるんだと思う。


 Carthiefschoolは、たとえていうならミーターズがシャブ喰ったような、かなりきわどいFUNKをやっていた。うろんで、はりつめた、神経症的な殺気があり、とにかく危うい。殺伐としたユーモアに満ちた、脂汗が滲むようなダンス・ミュージック。
ギター・ヴォーカルの室崎の痙攣感と変態的しなやかさは、まるで90年代末の坂本慎太郎のようだし、MCも何言ってるかわかんなすぎて凄い。ヤバいときの志ん生みたいだ。ベイスの元煕は『世界一ベースが上手い犬』だと思っているのだが、音に対する反射神経がほとんど動物並みだ。ハタチまで掃除機の使い方を知らなかっただけのことはある。彼はまさに“野生の思考”を体現している。


 GLANSは『最近のライヴはマジでヤバいよ』と伝え聞いてはいたが、実際観たらヤバいなんてもんじゃなかった。ひとことで言えば人力トランス・バンドということになるのだろうが、その音像は宇宙的というよりむしろ土着的である。ある種スピリチュアル・ジャズ的なアブラっぽいグルーヴがあるのだ。楽曲構成はきわめて理知的でありながら、演奏はトランシーで、物凄いうねりとひらめきがある。
この生々しいグルーヴは、ドラムのノブオの力によるところが大きいと思う。クオンタイズに忠実でありながら土臭さを失わないし、エンタメ性も高い。マジですばらしいドラマーだと思う。


 このイヴェントを通してわたしが感じたのは『未来は明るい。』という、アホ丸出しの希望である。つまりはフレッシュだ。ゾンビに噛まれたらゾンビになるように、フレッシュに触れるとフレッシュになる。フレッシュでいる限り、人間は絶対に自滅しない。新年早々、首を痛めるほどのフレッシュをくれた出演者陣と主催のthe hatchに心より感謝をささげる。そして、早急におかわりを求ム。



撮影: @o_sha_sha @yusukeoikaw

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