山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第八十五回 帰ってきたアウトサイダー・ミュージック特集
はいどうも。
以前、“胃もたれ必至のアウトサイダー・ミュージック特集”と題して、奇人変人たちによる規格外の音楽、アウトサイダー・ミュージックについて書きましたが今回はそれの第二弾をやろうと思います。
アウトサイダー・ミュージックって、根本的に『売れよう』とか『わかってもらおう』っていう音楽じゃなくて、ブッ飛んでる人たちがやりたいように、好き勝手にやっている音楽なんで、聴いてるとものすごく癒されるんですよね。本人たちもものすごく変わった人が多いから、バイオグラフィーなんかを読んでもものすごく癒される。
ジャズ・ミュージシャンの菊地成孔さんが『奇人は愛される』って言ってましたけど本当その通りで、なんちゅうか、愛さざるを得ないんですよね。
一般的に世の中って凝り固まってて、退屈で、くっだらねえルールとかいっぱいあるじゃないですか。つまんなすぎてヤバいじゃないですか。でもアウトサイダー・ミュージックは『こういう世界もあるんだよ』って教えてくれるんですよ。
共感を伴う肯定とか感動なんていうのは企業マーケティングやプロパガンダと紙一重ですけど、アウトサイダー・ミュージックはそういうものと隔絶されてますからね。『俺は俺。お前はお前。やりたいようにやろうぜ』っていう、自立を促し全てを肯定するもの、公共福祉的な優しさではなく、人間本来の生きる力を取り戻させてくれるもの。そういうのが僕の中でのアウトサイダー・ミュージックです。
というワケで、山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第八十五回は“帰ってきたアウトサイダー・ミュージック特集”と題して、愛すべきアウトサイダーたちによる音楽に皆様とともに耳を傾けていきたいと思います。みんな、ついてきてね!!
一曲めは、ビンゴ・ガジンゴで『アップ・ユア・ジュラシック・パーク』。
ビンゴ・ガジンゴです。本名はマレー・ワックス。
この名前を知っているという人はなかなかの好き者ですね。
このひとは郵便局員でしたが、定年退職すると、73歳から突如として音楽活動を始めました。詩人としてもひっそり活動していた彼は、友人たちが演奏したショボいシンセやフリーキーなバンド演奏に乗せて、即興で詩を読んだものを録音し、それをニューヨークのカフェで売り始めます。
アンダーグラウンド・シーンで彼はたちまち評判となり、アウトサイダー・ミュージックのイヴェントに出演するなどしてぐんぐん知名度を高めていきます。70過ぎにして2PACとマドンナのファンであったという彼は、この両者に捧げる作品も発表しています。
朴訥なラヴソングもあれば、放送禁止用語を連呼する過激な詩もあり、非常に振れ幅の多いアーティストであったということが伺えます。これは1997年にリリースされた一番有名なアルバムのジャケなんですが、なんというか、この満面の笑顔とズレたメガネが、彼の人間性をすごく如実に表しているようで素晴らしいですね。
ちなみに“ビンゴ”とは彼の両親がつけたあだ名で、由来はビンゴ・ゲームが大好きだったからだそうです。あだ名って普通本人の外見とか性格とか行動から決まるものだと思うんですけど、100パー個人的嗜好で息子のあだ名つけちゃうあたり、両親もなかなかアウトサイダー。
二曲めは、ムーンドッグで『ドゥー・ユア・シング』。
このシンプルながらも筆舌に尽くしがたい美しい曲を作ったのは、ムーンドッグ。本名はルイス・トーマス・ハーディンです。
do your thing、いい言葉ですね。
『お前もやれ』。
全てのアウトサイダー・ミュージック、いやさ全ての音楽、いやさ全ての芸術に通底するメッセージだと思います。お前もやれ。
ムーンドッグは盲目の詩人・ミュージシャン・楽器発明家で、30代の頃にメンフィスからニューヨークに移り住んだ彼は、自分の意思でホームレスになることを決め、それから20年近く路上生活者として過ごしました。彼は北欧神話に出てくるオーディンを自分なりに解釈して作った服を身に付けていました。
かっこよ!
ていうか目見えないのによくこんなん作れたな。
その独特すぎる風貌やライフスタイルから彼は『6番街のヴァイキング』と呼ばれていました。
彼は17歳のとき、ダイナマイトの事故に遇い、視力を失いましたが、アメリカ中の盲学校に通いつつ音楽理論を学び、楽器演奏や作曲を独学で身に付けました。メンフィスで彼はバーンスタインやチャーリー・パーカー、ベニー・グッドマンなどの大スターたちと出会い、ジャズやクラシックの素養を身につけていくこととなります。とくにベニー・グッドマンとは良きマイメンであったようです。
そして1940年末、彼はニューヨークへ移り住みました。彼は音楽活動をする一方で、路上で詩や音楽考察について書いたものを売り、生計を立てていました。50年代に入ると、彼の作品が有名ジャズ・レーベルから多数リリースされます。彼の独創的な楽曲はフィリップ・グラスやスティーヴ・ライヒといった現代音楽家にも多大な影響を与えることとなり、彼はニューヨークでよく知られる存在となりました。
ムーンドッグの音楽は、地下鉄や汽笛、街頭で聞こえる音などからインスピレーションを受けたものでした。完全にアンビエントの発想です。そこにジャズやクラシック、幼少期から親しんでいたというネイティヴ・アメリカンの音楽の要素を加えた彼の音楽は、その風貌やキャラクターからは想像もできないぐらい『普通にめっちゃいい曲』で、いわゆるこうした“アウトサイダー・ミュージック”界隈の中では非常に特異な存在と言えます。
たぶんブライアン・ウィルソンとかも影響受けてると思うんですよね。どれもこれも非常にシンプルなんですけど、聴き入ってしまう楽曲ばかりです。
三曲めは、ウェズリー・ウィルズで『ザ・ローリング・ストーンズ』。
シカゴをホーム・グラウンドとするローファイの巨漢、ウェズリー・ウィルズ。複雑な家庭環境に育ち、母親の彼氏に銃で脅されたことから統合失調症を発症し、以来、頭の中で聴こえる『デーモン』の声と音楽を制作し演奏することで病と闘ってきたという彼ですが、彼の音楽はそんなバッググラウンドを全く感じさせないほどチープで牧歌的。
クソショボいシンセに乗せて、ローリング・ストーンズやニルヴァーナやピンク・フロイドやエルヴィス・プレスリーなど、ただひたすらいろんなバンド名やアーティスト名を連呼しまくるだけの曲を死ぬほど出してます。
とは言え、ジャズやハードコアやヘヴィメタルやヒップホップを感じさせる要素もあり、彼が非常にいろいろな音楽を聴いていたというのが伺えます。センス一発、圧倒的に適当、徹底的にいい湯加減、それがウェズリー・ウィルズの音楽です。これぞローファイ。
デッド・ケネディーズのジェロ・ビアフラが『俺が世界一のファン』と自称しており、彼のレーベルからも何枚かリリースしています。
ちなみにミュージシャンである一方、画家としても知られており、ジャケなどは彼が描いたものです。
いい絵。
四曲めは、マリンダ・ジャクソン・パーカーで『蚊のいとこ第一番』。
マリンダ・ジャクソン・パーカー。
このひとの本職は国会議員です。
西アフリカにあるリベリア共和国という国の女性議員です。
なぜ議員がこんなレコードを?
明らかに壊乱したピアノに合わせて、理知的なトークと、裏返りながら軋むコーラスが何度となく繰り返されていきます。
幾度となく叫ばれる『come』の回数はなんと204回。『蚊が来るぞー!』みたいな感じでしょうか。
抑揚も音程もめちゃくちゃで、聴いてて不安になります。『やったか……!?』と思うと再び始まるドリフ展開が幾度となく繰り返されるので『もうええてー!』ってなります。軽い拷問です。さしずめ“黒いフローレンス・フォスター・ジェンキンス”でしょうか。フローレンス・フォスター・ジェンキンスはかのLIFE誌に『最も完璧かつ絶対的な才能の欠如』と評された伝説の音痴歌姫で、このひとも相当に素晴らしいのでそのうち紹介しますね。
でね、たぶんですけど、これね、『蚊は色んな病気を媒介するからみんな気をつけようね』みたいな啓蒙ソングだと思うんですよね。だとしたらまぁ議員さんが歌ってるのはわからなくもないですよね。でも人選も楽曲も歌詞も何もかも間違ってるなあとは思いますが。
ちなみにこの曲、第二番も存在するんですが8分近くあります。地獄〜〜〜(IKKOさん風に)。
はい、というワケでいかがでしたでしょうか、山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第八十五回、帰ってきたアウトサイダー・ミュージック特集、そろそろお別れのお時間となりました。次回もよろしくお願いします。音楽って難しいものだと思ってる人多いですけど、本当は誰でもできるんですよ。彼らがそれを証明している。俺はやる。お前もやれ。お相手は山塚りきまるでした。
愛してるぜベイベーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!
(山塚は現在史上まれに見る金欠で、Netflixの契約料金にも事欠いています。ぜひ恵まれない山塚にサポートをお願いします。後生ですから)