山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第115回 帰ってきたオーパーツミュージック特集
あなたは『オーパーツ』という言葉をご存知か?
“Out-Of-Place ARTifacts”を略した言葉で、『場違いな工芸品』ってな意味なんですけども、まあまあ、すげえ簡単にいうと、その時代において有り得ないはずの人工物のことです。
真偽はともかくとして、カンブリア紀の金属ボルトや石造都市マチュ・ピチュ、デリーの鉄柱なんかがありますね。
で、これは音楽にも存在します。
『え!? この時代にこんな音楽やってたの!?』と魂消てしまう、突然変異としか言いようがない音楽。
私はこれを“オーパーツ・ミュージック”と呼んでおり、日々是ディグに勤しんでおります。
というワケで山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第115回は、“帰ってきたオーパーツミュージック特集”と称して、その探求結果の一端をここに記します。
なお、同様テーマでみたび記事を書いておりますので、ぜひこちらもあわせてチェックしてみてください。
一曲めは、イリアンで『ヘイ・デニス』。
これは最近知ったんですけども、マジにガチでオーパーツです。
なんせリリースが1977年。
パンク・ロックが生まれた年に、もうそれを軽く飛び越えて90年代のエモとかUKメロディックみたいなことをやっているし、なんならそれらに影響を受けた最近のロック・バンドみたいな音を出しています。
メロディにしても、ギターフレーズにしても、リズムセクションにしても、驚異の一言。
1977年といえばグレート・ヴィンテージ、パンクにテクノにディスコにニュー・ウェイヴと新たな音楽が百花繚乱した年ですけれども、この時期の音楽をずらっと見渡してみても、こんなセンスを持ったバンドはおよそ見当たりません。
早すぎる、あまりにも早すぎる。
バンドをやっている友人は『シアー・マグがホイットニーの曲をやっているみたい』と漏らしていましたが、なるほど言い得て妙であります。
調べてみると当時カリフォルニアに在住してたレオン・デヴィッド・ナハットっていう青年がほぼ独力で作り上げたアルバムらしくて、録音年数も場所もバラバラの楽曲をコンパイルした盤みたいなんですけど、振れ幅の大きさも凄まじいです。
アシッド・フォークからメロウ・ソウルまで色々な音楽をやってます。そしてそのどれもが非常なハイ・クオリティ。
なお、このレオン・デイヴィッド・ナハットさんはこののち音楽活動をすっぱりヤメて、水道ビジネスで財を築き上げ、リムジンのコレクションを所有するまでに至ったそうですけども、怪しい話に騙されて結局ビジネスからも撤退したらしいです。
後世に何の影響も与えなかった、オーパーツ&オブスキュアな、異形極まりない作品。70年代のエロ劇画を彷彿とさせるジャケもナイス。
二曲めは、チャランジット・シンで『ラーガ・バイラ』。
えー、アシッド・ハウスというジャンルがございます。
1987年、シカゴのDJ pierreがローランドのアナログシンセ、TB-303(1982年製)をいじくっていた際、ツマミを適当に回しまくると音がブンニョリしてLSD(“アシッド”とも呼ばれる幻覚剤)にピッタシカンカンだぜ! ってことを発見し、そっから世界的に広まっていったムーヴメントなんですけども、実はその5年前、発売ホヤホヤのTB-303を使って全く同じ発想でサウンド・メイキングしていたミュージシャンがいます。
それがチャランジット・シンさんであります。
チャランジット・シンさんは元々インド映画のスタジオ・ミュージシャンだったんですけども、1982年に初のソロ・アルバム『テン・ラーガス』をリリースしました。
アナログシンセによって、ラーガ(8世紀頃から存在するインドの音楽理論の要となる旋法)とディスコ・ミュージックを組み合わせたこのアルバムはあまりに革新的すぎ、当時はまったくセールスしませんでしたが、2010年に再発されたことをきっかけに再評価を受けます。
チャランジット・シンさんはこのアルバムがどれだけ驚異的なブツであることかをイマイチ理解していなかったようですが、ともあれシンさんの元には多数のオファーが舞い込み、シンさんはヨーロッパ各地のクラブで公演することとなります。
インドから来た70歳過ぎのおじいさんがヨーロッパの若者を熱狂させた、というのはとても不思議で、かつ素敵な出来事ですね。
事実は小説より奇なり、であります。
三曲めは、ジョディで『チェンジ・ユア・マインド・アバウト・ミー』。
ウルグアイのドイツ移民二世であるウェンガー兄弟によるユニット、JODI。
YouTubeのコメント欄を見てみると、『これ最近の録音だよね?』なんてなコメントがありますが、なんとこの楽曲、1973年に録音されたものです。
なんというオーパーツぶり。
ヌケの良いダンサブルなリズムに囁くような艶っぽいヴォーカル、うねりまくるスペーシーなギターやシンセが絶妙なバランスで配置されたこの楽曲は今聴くだにイケまくり、最近出た宅録ユニットと言われてもフッツーに信じちゃいますね。とにかくめちゃくちゃセンスが良いです。
このアルバムは1969年から1975年にかけて彼らが自宅スタジオで制作した音源をコンパイルしたものでして、他の曲も非常に素晴らしいローファイ・サイケ・ポップが目白押しですんで、是非聴いてみてください。
なお、こののちにウェンガー兄弟はシュトックハウゼン(ドイツ出身の現代音楽のスーパースター)に弟子入りしたらしいです。
どこまでも謎!!!
四曲めは、スタードライヴで『ドクター・タンデム(テイクス・ア・ライド)』。
メガドラじゃん!!!!!!!!!!!
完全にセガのシューティングゲームの音楽じゃん!!!!!!!!!!!
すいません、取り乱しました。
バンド名からアルバム名からジャケから何から何まで、80年代〜アーリー90年代のシューティングゲームを彷彿とさせる、チープでスペーシーなグルーヴが渦巻くこのアルバムですが、なんとリリースは1973年であります。
『スター・ウォーズ』も『スペース・インベーダー』も『イエロー・マジック・オーケストラ』も登場するはるか以前に、こんなギャラクティックなピコピコ・サウンドを鳴らしていたバンドがいたという驚異。
クラフト・ワークが『アウトバーン』で電子音楽をポピュラー音楽に持ち込んだのが1974年、
“ゼビウス”などのBGMを収録した日本初のゲーム・ミュージックのサントラ盤、『ビデオ・ゲーム・ミュージック』(なんとプロデュースは細野晴臣)が発売されたのが1984年なので、もうこのバンドがいかに先行ってたかってハナシですよね。
ブチ飛ばし過ぎです。
当時最新鋭だったシンセサイザーをふんだんに使ってプログレやフュージョンをやってみた! って考えたらまぁ文脈として理解できなくはないんですけど、しかし、それにしてもだ。って感じであります。
ちなみにこのアルバムが彼らのデヴュー盤なんですが、スライ&ザ・ファミリー・ストーンのカヴァーも入っていたりしてかなり謎です。
ハイ、というワケでいかがでしたでしょうか、山塚りきまるの『なんかメロウなやつ聴きたい』第115回 帰ってきたオーパーツ・ミュージック特集、そろそろお別れのお時間となりました。
次回もよろしくお願いします。
お相手は山塚りきまるでした。
愛してるぜベイべーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!
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