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中村彝の野田半三宛の絵葉書(明治40年8月26日)

日立の川尻から出したこの絵葉書は、ある種のユーモアを交えた男女の盆踊りに始まる。
一見、他愛もない盆踊りの男女3人を描いた絵葉書に見えるが、本文を読んでみると、賑やかな盆踊りに対比される彝の若くて繊細な、そして寂しい内面も強く感じさせる内容となっているのが分かる。
   ***
【盆踊りの絵の囲み内にある文字部分】

「盆踊り」

「石の地蔵様頭が円い 烏とまればなげ島田」

※石の云々は、全国に様々ある「ノーエ節」の一節。「投(なげ)島田」とは、遊女に多い結髪法らしい。してみると、この一節は男女の性的な隠喩が感じられる部分であるかもしれない。

【本文】
久しく御無沙汰致しましたが御変りは御坐いませぬか。
田舎では今が御盆(ボン)なので、毎晩月の下で沢山の若い男女が踊って居ります。
   〜〜〜
何か作品が出来ましたか?帰って見るのが楽しみであります。
   〜〜〜
面白い変った話があるなら知らして下さい。

(彝は書き足らなかったのか、葉書の宛名面に続きが書いてある。以下。)

何だか此頃は心の中に大きな大きな穴が出きた様に祈りたる度(タビ)悲しくてなりませぬ。
   〜〜〜
昨晩半チャンの夢を見ました。
何処を描いて居るんですか?御知らせ下さい。
「逆(サカ)しまで失敬」

【以上、本文終わり】

※「逆しま」と書いてあるのは、絵葉書の裏面が上下逆さまになっているからだろう。

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