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次の挑戦『人と水の新たな関係づくり。』

こんにちは、水の人こと、北川と申します。

簡単に自己紹介をすると、10代の高専の頃から、様々な角度でずっと水について研究や開発を行ってきました。東京大学の博士課程在学中の2014年に、WOTAという会社を創業しました。WOTAでは、小型水循環装置であるWOTABOXなどの開発などおこないました。2020年にはWOTAの代表取締役を含めた全ての職から退き、現状は水に関わる新たな会社やプロジェクトを進めております。

2024年3月22日(執筆日)は、世界水の日なのですが、節目としてこの文章を書くことで、僕が望む未来の水と人のあり方について、少しでもこれからの挑戦として考えていることが伝わればと思います。

WOTA退任理由『新たな課題への挑戦として自分がやるべきと思うことが出来た』

私がWOTAの代表取締役を辞任することにしたのは、いくつかの要因がありますが、最も重要なものは、自分が挑戦しなければならないと感じた未来の課題を新しく見出したからです。WOTAの事業は成長し、新しいフェーズに入ったことで、WOTAでの活動から浮かび上がってきた水問題に対して、もっと新たな視点で取り組む必要があると強く思うようになりました。

WOTAが成長する中、多くの人々に支えられました。チームメンバーやパートナー、そしてWOTAを応援してくれた全ての皆さんには、改めて敬意と感謝を申し上げます

新たな課題『現代人と水の間にある隔たりが、水問題を複雑にしているのではないか?』

WOTA在任中に国内外で活動する中で、感じるようになった水の課題は、個人と水との心理的な距離が問題をより複雑にしているということでした。水へのアクセスや管理が政府や企業によって行われる現代において、多くの人々は水を遠く感じるようになり、自分たちの直接の関与が薄れがちになっています。これが、水問題を個人にとって遠い、取り組みづらいものにしてしまっているのではないでしょうか。

この距離感は、小さな水問題が適切に対処されずに大きな問題へと膨らみ、結果的に大規模な解決が必要とされる状況を生み出していますそのために、大きなソリューションが必要になり、意思決定に時間がかかり、コストも莫大になってしまっているのではないかと、考えています。

これは、絵本「スイミー」の物語は、小さな魚たちが集まり、大きな魚に対抗するお話ですが、今の水問題に対する私たちの見方は、本来は小さなはずの多くの問題が集まり、一つの大きな恐怖として捉えられ、個々の人々が無力感に陥っている状況のように感じています。

これが現状の水問題を複雑にしている課題と認識するようになりました。

現状『買っているのは"水"ではなく、"水を扱うプロセス"』

自然に存在する水と、公的機関や企業が提供する水の最大の違いは、人が安全に利用できるように処理されているかどうかです。

水は地球上の共有資源で、誰もが所有することはできません。地球全体で循環し、私たちはその一部を一時的に利用しているに過ぎません。例えば、あなたの体内の水分子がいつか熱帯雨林のスコールや太平洋の波に変わる可能性があります。

そして、公的機関や企業が提供する水は、一時的な利用を安全に管理しやすくするためのものと言えます。言い換えると、私たちが水を買う時、本当に買っているのは水そのものではなく、人間が利用できる状態にするための地球からの一時的な借りるための水を扱うプロセスです。

このプロセスは複雑で、多くの技術、知識、コストが必要であることから、大きな組織である公的機関や企業など限られた人々によって扱われ、個人が隔たりを感じものとなってしまったのだと思います。

理想『誰でも目の前の水を自分で扱える選択肢を持てる』

その課題に対して考える中で僕なりの考えは、人と水の理想的な関係は、個々人が自分に関わる問題を認識し、解決できるようになるというシンプルな選択肢が誰でも持てることだと思っています。これは、全ての人が自分の水問題を自力で解決しなければならないということではなく、今のように関与できない状況から、望めば自分でも水を扱えるようになるということです。水は命に直結するものなのに、自分で選べないまま、いざという時も何もできずに与えられるのを待つというのも健全ではないとも考えています。

20世紀では、大きなインフラが水問題の答えでした。しかし、21世紀になって、水処理技術やインターネット、AI技術などが発展し、個別の問題に合わせた柔軟な対応ができるようになりました。

このような技術の変化におかげで、創造性を刺激し、一人ひとりが小さな問題に効果的に対処できるようになります。水と人との関係は変化し、個人が自分の手で水問題に取り組めるようになる選択肢がつくれるはずです。

理想のためにの3つのアプローチ

理想である水と人との関係を実現するために、「人と技術を繋ぐ」、「人と水を繋ぐ」、「人と人を繋ぐ」という三つのアプローチを考えています。

アプローチ1. 「人と技術を繋ぐ:水処理開発システムの構築」

水処理の部品やIoTやAIなどの技術は大きく進歩していますが、これらが個人レベルで水を操作することを実現しているわけではありません。そこで、私たちは個々の人がこれらの技術をもっと簡単に使えるようにする新しいプロジェクトを始めています。

  1. モジュール化したハードウェアの開発
    水処理技術をよりアクセスしやすくするため、フィルター、ポンプ、センサー、そしてそれらを制御するためのマイコンを簡単に繋げられるよう、モジュール化を進めています。このモジュール化されたハードウェアシステムは、LEGOのように、誰もがハンダ付けや特殊な工具を使わずに、簡単に組み合わせて水処理装置を構築できるようにすることを目指しています。ハードウェアに馴染みにある方は、水に特化したarduinoやM5 Stackと捉えてもらえたらと思います。

  2. ソフトウェア開発のためのライブラリー
    様々な水処理アプリケーションを簡単に開発できるようにするため、ハードウェアを豊富な機能を提供するソフトウェアライブラリーの整備を進めています。このライブラリーは、非技術者でも理解しやすい形で、水質分析、流量管理、リモートモニタリングなどの機能を簡単に実装できるようになることを目的としています。

モジュール水処理開発システムのイメージ

アプローチ2: 「人と水を繋ぐ: インターフェイスのデザイン」

水処理技術のブラックボックスを解消し、ユーザーが自分の水使用状況や水の状態を直接把握できるようにするためのインターフェイスをデザインしています。センサーやIoT技術を用いて、フィルターの効果や寿命、水質の変化などをリアルタイムでモニタリングし、これらの情報をユーザーにわかりやすく伝えます。これにより、ユーザーは自分の水使用に関する意識を高め、効率的な水の利用や管理を行うことができます。

アプローチ3: 「人と人を繋ぐ: オープンソース型アプローチ」

オープンソースの精神に基づき、水処理技術に関する知識、ツール、ソリューションを共有し、世界中の人々がこれらを活用し、改良していく仕組みを構築を目指します。このアプローチは、個々人が直面する小さな問題からスタートし、その解決策が他の人々によって再利用、改良されることで、より多くの革新的なアイデアが生まれる土壌を提供します。水問題への対処は加速度的に速くなり、効果的な解決策へと繋がると確信しています。一人ひとりが小さな問題に取り組むことが、目の前の問題解決だけでなく、世界に大きな変化に繋がっていくはずです。

進めるための体制『オープンソースコミュニティと企業』

これらのアプローチを加速させるために、オープンソーステクノロジーとして世界を変えた事例として、LinuxとRedHutを参考に組織体制の構築の準備を進めています。オープンソースの柔軟性と企業の安定性を融合させ、水問題に対する新たな解決策を世界中に広げていきたいと考えています。

補足説明『LinuxとRed Hat』
Linuxは無料で使える基本ソフトウェア(オペレーティングシステム、OS)で、世界中の人々が自由に改良や共有できます。その使い勝手の良さから、個人のパソコンはもちろんのこと、AmazonやGoogleなどのクラウドサービス、そしてスーパーコンピューターに至るまで、幅広い場所で活用されています。このLinuxを基に、企業向けの特化したサービスを提供している会社がRed Hatです。Red Hatは企業がLinuxを安心して利用できるようにサポートし、Linuxのさらなる普及を支援しています。

1. オープンソース化としての非営利コミュニティの展開

プロジェクトをオープンソース化し、世界中の個人や団体が自由に参加できる非営利のコミュニティとして展開します。このアプローチにより、ソフトウェア開発者、研究者、エンドユーザーなど、様々なステークホルダーがプロジェクトに貢献することが可能になります。Linuxの成功事例から学び、オープンソースの柔軟性を活かして、多様な環境で利用される基盤を築きます。このコミュニティを通じて、ソフトウェアの開発や改善、新しいアイディアの提案、ユーザーフィードバックの収集を行います。

2. 社会実装を加速するための会社としての展開

プロジェクトの安定性や信頼性を保証し、社会実装を効率的に進めるためには、企業としての展開が必要です。私たちは、技術の商用化やサポート体制の構築を行う会社を作り、Red Hatのような役割を果たします。この会社は、プロジェクトの社会実装を加速させるための資金調達、技術サポート、ビジネスモデルの開発などを担当します。また、この会社の周りにはプロジェクトに合わせた事業会社やJVなども設立していく予定です。企業としての取り組みが、プロジェクトの持続可能性と成長を支え、より広範囲にわたる社会問題への対応を可能にするはずです。

僕の夢『人々が、みずから(水から/自ら)つくる未来を見たい』

僕の夢は、人々が、水から/自らからつくる未来を見ることです。「水は、万物の根源である」と哲学の祖タレスの言葉から、大河のほとりで芽生えた文明、夜空から見た地球は人の暮らしの灯りで水域が浮かび上がって見えます。水は常に私たちの世界を形作ってきました。

Image: NASA

私たちの文化や生活は水とともにあります。日本の出汁文化のように、水の質そのものが文化を形成してきた例もあります。水の影響力は計り知れません。

しかし、21世紀に入っても、私たちは水を完全に自由に扱えているわけではありません。産業革命がエネルギーの扱い方を変え、インターネットが情報の革命を遂げたように、水との関係も変革の時を迎えています。水問題は膨大な課題を孕んでいますが、この課題を乗り越えることで、新たな文化や社会が生まれると確信しています。

水が変わると未来はどうなるかを聞かれることがありますが、正直全く分かりません。水を自由に扱えるようになれば、未知の可能性が開かれる。水の扱いが変われば、未来も変わります。どのように変わるかはまだ誰にも分かりませんが、僕はその変化が良い方向に進むことを信じています。

これまで「こんな水の扱い方ができたらいいのに」という相談を受けることがありました。水がもたらす未来の可能性について語る人々の話を聞くことは、僕にとって最大の喜びです。時には僕が想像もしていなかったような未来の可能性や新たな気づきを提供してくれる人もいます。それらの可能性を実現するような仕組みを作り、水と人の関係性を変えていくことが僕の使命だと感じています。

人々が水について語る時、僕は彼らが制約ではなく可能性に焦点を当てて語ってほしい。そして、それらの可能性が一つひとつ現実化していく未来を形作っていく。僕は、そうやって人々が、みずからつくる新たな未来を見たいです。

これからについて

これまでの道のりは、主に研究開発(R&D)に集中し、水問題に関する深い理解と解決策の模索に努めてきました。ここまでは、ほとんど水面下で進めていましたが、次のステップに向けて、僕たちは方針を変更することにしました。これからは、より多くの人々との協力を基に、オープンな形でプロジェクトを進めていきたいと考えています。

この変化の一環として、僕が考える水の未来について、一種のホワイトペーパーとしてまとめたのがこの文章です。この文書は抽象的な内容を含んでいますが、水という存在が私たちの未来にどのような可能性をもたらすかについての僕の考えを表しています。

今後は、もう少し具体的な内容を順次公開していく計画です。それには、現在の組織構造やアプローチの進捗、さらには社会実装への取り組みなど、様々な面での進行状況を含めます。特に、生活の基本である衣・食・住・教育に関連するプロジェクトに関しては近日中にそれぞれについて公開していきたいと考えています。



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