レーシック手術を受けた話③

30分の休憩時間が終わり、ついに目を開ける時がやってきた。
ただし、「保護メガネあり」という条件付き。
見た目は花粉保護メガネのような感じ。そしてレンズは過度な光を遮断できるように若干茶色ががっている。カレーで30分煮込んだぐらいの染み具合である。お世辞にもオシャレとは程遠い眼鏡だった。
「明日の検査までこの眼鏡をつけたままにしてくださいね。」
ようやくクソダサ眼鏡とおさらばできると思ったのに、さらにダサい眼鏡をかける羽目になろうとは...
「あと、今日はなるべく光が入らないように半目で過ごしてくださいね。」
「今日ずっとですか?」
「今日ずっとです。」
なんとも綺麗なオウム返し。恐る恐る目を開けたものの、半目だし手術直後なので視力回復はあまり実感できなかった。さらに看護師は何時間おきにこの目薬を点せとか、今日は風呂シャワー禁止、洗顔も禁止。運動もダメ。飲酒なんかもってのほか、と様々な掟を作り上げ私に発表した。ようするに今日は家帰ってすぐ寝ろという事である。

絶対に掟を破らないと誓い、最強に目つきの悪い状態で受付を済ませて医院を出た。明日にはまた検査の為に訪れなければならない。
ここから自宅までの道のりが本当に嫌だった。なんせずっと半目で家まで帰らなきゃならない。街行く人からすればクソださ眼鏡でガン飛ばしながら歩いてくる変な奴なのだからだ。職務質問なんてされたらめんどくさ過ぎる。
私はなるべく周囲の人に見られないよう下を向いて歩いた。人生で一番猫背になった日だった。電車の中ではずっと寝たふりをし、どうか知り合いに出くわさないことを祈った。私の祈りは神に通じ、誰にも出くわさずに家路についた。

この日は掟どおりもう軽い読書をしただけで寝た。シャワーも洗顔もだめというのは気持ち悪さMAXだったが、やむをえない。クソださ眼鏡は目薬を点す時以外、寝るときも外してはならないのだ。寝てる間に眼球をこすったりしたらどうしようかと不安に感じた。いっそ両手をロープで縛って寝てやろうかというとんでもないドMプレイが頭をよぎったが、幸いそんなロープは持ち合わせていなかったため、普通に寝た。

翌朝、目を覚ますと感動した。
眼鏡の影響で茶色がかった世界ではあるが、見える見える全てが見える!天井の皺も、本棚の細部も、たんすの木目も、すべてがクリアな像を結んでいた。たった一日でこんなにも視力って回復するものなのかと、現代医学のすばらしさを身をもって感じた。
あとはこの茶色がかったフィルターを取り去るだけだ。今日は検査のために眼科を再訪することになっている。また半目の状態で出歩かなければならないのは苦痛だったが、二日目ともなると少し慣れた。昨日は極端な猫背だったが、心なしかこの日は胸を張れていた気がする。だってこんなに目が良くなったのだから。
眼科が近づくにつれてうずうずしてくる。早く取りたい、早く取りたいこのクソダサ眼鏡を!!!早く思いっきりこの目を開きたい!!

さっさとこの眼鏡取らんかいゴルァ!と半ば取り立て屋のような気分で眼科の扉を開けた。半目のせいで目つきが悪いので、心身ともにヤクザ状態に陥っていたかもしれない。

「あのー、手術後検診に来たのでお願いします。」
狭い視界を操りながら診察券を提出したとき、看護師がこう言った。

「あ、今日は半目にしなくていいですよ!」

「……マジで?????」

顔から火が出るとはこのことだ。看護師さんちゃんと言ってくれよと思ったが、それを言ったところでどうにもならない。家からここまで目つきの悪い不審人物として存在していた過去はもう取り消せないのだ。

「あ、ハイ…」

という情けない返事と共に半目から全目に切り替えた。穴があったら入りたい。
でもこういう勘違いだって後でネタになるからいいじゃないか。現にこうやってブログに書くネタとして重宝している。友人に話したら結構ウケた。
でもそう思えるのって結局事が全て終わってからなのだ。

検査の結果両目とも異常なしと診察され、クソダサ眼鏡とおさらばした。茶色のフィルターが無くなった世界はとてもきれいだった。今までこんな狭い世界で生きていたのかと思えた。18万でこんな感動を得られるなら本当にやってよかったと思う。
帰り道に見た京都タワーがそのてっぺんまでくっきり見えた。思わず何かに感謝したくなり、そのまま東本願寺に立ち寄って手術の成功を報告した。
普段お寺になんか行かない私からのいきなりの報告に仏さまもさぞ驚いただろう。
こんな汚れた心を持つ私を一瞬にしてお寺に向かわせる力を持つとは、レーシック手術よ汝に幸あれ。

~おわり~

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