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はみがき

今まで、何百回とはみがきの指導を受けた。「歯ブラシはこういう角度で、歯にはこの角度で当てます。ゴシゴシこすったりしないで、軽く、サラッサラッと弾くように当てていきます」わかってはいるのだが、そううまくいかない。

歯科衛生士というのか、歯科助手というのか、あのお仕事をする人は、丁寧で優しい口調だけれど、いつもサッパリキッパリ、毅然としている。そして「ああ、今わたしは叱られているんだな」と脳の隅っこでわたしは萎縮する。

歯科医も、こんな風な状態になるまでどうして来なかったんですか、とは言わない。「ちょっとでも様子が変だな、と思ったら、すぐに来てくださいね」と優しく言う。しかし、わたしにはその加減がわからない。どれくらいの「ちょっとしたこと」が許される範囲なのか。そして、予約の取れなさよ。

なんか違和感あるなと思って電話しても、わたしの仕事と歯医者の混み具合はいつもバッティングする。今、見て欲しいと思っていても「来週まで空きがありません」と言われる。一度、「どうしても今日、診てもらえませんか。様子を見るだけでいいです」と食い下がったら、「予約の方の合間に診ますので、かなりお待たせすることになりますが、いいですか」と言われた。いいですいいです、とわたしは歯科医に向かった。

「あらー。これはちょっとあなた」と歯科医師は言い、「今日、治療はできませんが、お掃除をしてもらって帰ってください。来週、本格的にやりましょう」と去っていった。

徹夜が続くと歯茎が腫れてくる。歯磨きをしないわけではないが、そんなにじっくりとは磨く時間も気力もない。だらしないのはわかっているが、とにかくギリギリの精神力で、ようやっと歯磨きをする日が続く。

起きている時間が長いのは、忙しいからだ。忙しいのは自分のせいだ。仕事がさばけない。若い頃は1日にやることが10個あったら、余裕で10個できた。でも今は違う。処理能力がガタ落ちで、2つか3つ残してしまう。するとそれが溜まっていき、「これはもうダメだわ」とお尻に火がついてから徹夜することになる。

さて。もう寝た方がいいのはわかっているが、まだ終わらない仕事を抱えていて、徹夜するかもしれない。そこで、とにかく歯磨きだけはしておこうと思ってブラシをくわえたところだ。

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