菅田将暉のせいだよ。

バス停で、大勢の老人に混じって立っていた。そうしてバスを待ちながら、Spotifyでランダムに菅田将暉の歌を聴いていた。ムスメの同級生がいい曲だから、と勧めてくれたのだ。

「エモいー。」思わず声が出た。なんだこの少年ぽい声。歌い方の自由さ。歌詞の平易さ。サウンドの懐かしさ。自分で作ったのだろうか。

菅田将暉のことは、おばちゃんも知ってたよ。GReeeeNの映画で歌っていたことも、去年の紅白に出たことも、知ってる。オールナイトニッポンを聴いたこともある。演技の素晴らしさも知ってる。映画もドラマも見たことがあるし、数々のMVも見た。

だけどなんていうか、思春期を通り抜ける段階で迷子になってしまったみたいな歌をこれほどまっすぐ、しっくり歌う人だとは思ってなかった。意外。

おじいちゃんやおばあちゃんが寒そうにバスを待っているのを見ながら、菅田将暉ののびのびとした声を聴く。ちょうど空が晴れ渡って、雲の向こうへ歌声が抜けていくようだ。若いっていいな、と思う。若いのに、これだけ力が抜けているのはすごいことだ。誰しも、若い頃にはどこか変な力が入っているものだ。老人たちの横顔に、彼らの若かりし日が透けて見えてくる。みんな若い頃があったのだ。わたしにもあった。

最近「もっとこんなことをしておけば良かった」と思うことがある。「もしもあの時」なんて、考えても無駄かもしれないけど、想像せずにはいられないこともある。あの時、学校を休まなければ。あの日、東京での就職を断らなければ。…もっと違った人生になっていたと思う。

そんな話をしていたら「え。それじゃわたしが生まれてなかったじゃん」とムスメが言った。

今が一番いい。わたしがそう思わなければ、ムスメの存在が揺らぐ。ムスメの自尊感情が傷つく。そういう責任を選んだのも、わたしなのだ。

自分の歌がきっかけで、九州の片田舎のおばちゃんが若さや人生について考えているなんて、本人は知るよしもないのだが、でも、菅田将暉のせいだ。

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