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SPROUT

inktober2021 20日目のお題は「SPROUT」

朝起きたら、頭痛がしていた。首から上、特に後頭部が痛い。孫悟空もこういう痛みに耐えたのかと思うくらい、頭の鉢を締め付けるような痛み。
目から芽でも出るのかと思うくらい、目の奥が痛む。

おかしい。なにかが違う。起き上がって、洗面所に行き、洗濯機のスイッチを入れようとしたら、足元にタオルを落としてしまった。それを拾おうと前屈みになった時、カチッと小さな音がしたような気がした。む。これはおかしいぞ。

左目の端に閃光が見えた。ギザギザの光の輪が、キラキラしながら広がっていく。これは、あれだ。閃輝暗点。前にもなったことがある。脳だ。脳に何か問題が生じた。

そのまま二階に戻り、オットに頼む。午前6時半。ぐうぐう眠っているオットの部屋の電気をつけた。「わっ。眩しい!なんだ!」と文句をいいながら目を覚ます。すごいな、レスポンス。「ひどい頭痛がします。これは脳に問題があると思うので、すみませんが、ヤツを起こして学校に行かせてくれませんか」オットは、わかった、と立ち上がって「救急車を呼んだ方がいいんじゃないか?」と言った。え?と頭をもたげると、「まあいい、とにかく寝ていろ」と言って下に降りていった。

バタバタと支度をする物音がして、わたしはただ横になってそれを聞いていた。ムスメが部屋に飛び込んできて、「お母さん!学校に行ってくるよ!寒いんじゃない?暖房入れた方がいいよ!寒いと頭が痛くなるからね!」と言いながら、リモコンを握った。

確かにわたしの寝ている場所は、窓辺で非常に冷える。それでこんなに頭痛がするのか。ぼんやりと考えていたら、オットが洗い終わった洗濯物を抱えてやってきた。どうするんだろうと思っていたら、干した。それはそれは、慣れないことをやっていますと言わんばかりの様子で、干された洗濯物は「まっすぐ」じゃなかった。パジャマのズボンは斜め45度に立っている人みたいだし、下着のパンツはまるまったまま吊るされていた。Tシャツの袖は内側に入り込んだままだ。乾けばいい、ってことだろうけれど、これではうまく乾かない。しかし、干してくれてありがとう、と言った。オットは「ふむ」と言って部屋を出て行った。わたしが死んだら、こういう生活になるのか。

職場に欠勤の連絡をして、今日中にやらないといけない作業を伝える。自分でも驚くほど的確だ。「デスクトップにおいた画像ファイルと、赤のファイルに挟んだ書類をPDFで、共有ファイルBの3の11の2のボックスに格納してください」と頼みながら、あれ?脳、大丈夫じゃないですかね?と思った。

病院では、サクッとMRIを撮ってくれて、すぐに診断が出た。「なんともないですね」と先生が言う。そして、閃輝暗点は脳の血管が一時的に細くなって血流が悪くなったことが原因で、それが元に戻った時に激痛がするんです。脳の画像も、血管の画像も、異常は見られないので、これはアレですね、疲労、です」先生はそう言いながら、わたしの顔を覗き込んだ。「何時に寝てます?」えーと、12時を回ることが多いです。「で、何時に起きます?」5時半…「あ〜、それは少ない。もっと寝ましょう」

結局、寝不足なのだ。疲れが取れていない。

検査結果が異常なしと聞いて、オットは「それはおめでとうございます」と言った。蜂楽饅頭も買ってくれた。なんだろう。怖いくらい優しい。

さっき、ちょっとキレ気味に「あなたはもう寝なさい」と言われたので、素直に寝ることにしよう。

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