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くらやみ

最近、夢を見てもあまり覚えていない。以前は克明に思い出すことができて、ディテールまで細かく書くことができたのだが、今はできない。

昨夜の夢は、わたしが白い車を運転していた。そして、段差のあるところでハンドリングを失敗して、横転してしまった。しまった、オットに怒られる。車に傷がついていませんように、と思いながら、わたしは手のひらに包むようにして車を起こす。いつの間にか、車は小型犬くらいの大きさになっていて、白い車体はホウロウでコーティングされたみたいにツヤツヤと冷たく光っていた。そっと裏返すと、右のフロントタイヤが少し擦れたあとがついているが、車体そのものには傷はない。ホッとした。

車が小さくなってしまったので、もう乗ることができない。わたしは次の場面では、黒っぽい車の助手席に座っていた。運転しているのは誰だかわからないが、オットのような気もするし、父のような気もする。

夜の車道は暗い。郊外なのだろうか、周囲に建物はないし、道路を照らすライトもまばらだ。突然、まずい、と思った。アスファルトに大きな裂け目が見えたからだ。それは、何かの工事中なのだろうか、センターラインに沿って何十メートルもの長さで、車幅以上の穴が空いている。中には土砂崩れなどを防ぐときに使われる、波打った形の鉄板が見える。そしてその中は、深く、真っ暗だ。

どうしよう、と思う間もなく気づけば車はその穴の中にハマるように落ちてしまった。ガクン、と衝撃があって、わたしは何かにつかまったか、引っかかったかで、車から外に出ていた。アスファルトのフチの部分で中を覗き込んでいる。車はもう見えない。底がどれだけ深いのかもわからない。

わたしは叫んだ。「おとうさーーーん!おとうさーーーーん!」
返事はない。どうしよう。助かってほしい。
何度も叫ぶが闇の中に声が吸い込まれてしまって、物音ひとつしない。
ここはどこだ。なぜこんなことに。

目が覚めてから、あれは父だったのか、それともオットだったのだろうかと考えた。晩年ではなく、元気に運転をしていた頃の父だったような気もするが、最初に運転していたのはオットだったような気もする。

以前、オットが「正夢になるから夢の話はしないでくれ」と言ったことがある。だから言わなかった。ただ、自分の中に納めておくのも気持ちが悪いので、書くことにした。


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