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わたしに必要なもの

クレソンを摘みに、友だちに連れて行ってもらった。

福岡市は海と山が近く、ちょっと車を走らせれば、自然の中へ飛び込める。今日は、みんながドライブする道路を途中から左に折れて、川沿いの道をゆく。友だちが『クレソンポイント』と呼ぶ場所を目指す。

路肩に車を停め、垂直な護岸を階段やはしごではなく、壁に打ち込まれた金属の取っ手のようなものにつかまり、足をかけながら降りる。クレソンは川底に群生しているのだ。数日前からの雨で水は濁り、水かさも増している。ドキドキしながら足を水面に下ろす。「冷たっ!」なんと、わたしの長靴には穴が空いているようだ。水がしみこんでくる。不覚。

「クレソンは、引っ張ると根ごと抜けるから、茎を折るのよ。根から抜いてしまったら、もう生えてこない。最近は、乱獲する人が増えて困ってる」
わかりましたあ!と返事をして、せっせとちぎる。気持ちよくポキッ、パキッと音を立てながら、クレソンはわたしの手の中に収まる。それをレジ袋に詰めること15分程度。大きめの袋がいっぱいになった。その袋を片手に、さっきの取っ手につかまりながら登って行く。

この頃寒くて、アーシングをしていなかった。長靴を履いていたから、厳密にはアーシングではないが、両手を川の水につけ、植物を触った。なにかが抜けて行ったような気がする。もしかしたら、穴の空いた長靴がよかったのかもしれない。「冷えたね」と言いながら、友だちと車に乗り込む。

帰り道、海岸沿いのカフェで、冷えた指先を温めながらホットチョコレートを飲んだ。カフェの目の前は砂浜だ。久しぶりに海を見た。雨まじりの強い風を受けて、窓ガラスは濡れていた。水滴の向こうに、鉛色の雲が垂れ込め、玄界灘の荒れた波が打ち寄せているのが見えた。

一息ついた頃、雨が上がり、雲間から光が差してきた。一人のサーファーがボードと、オールを抱えて浜に出てきた。彼はスッとボードに乗ったかと思うと、立ち上がってオールを持ち、まるでレレレのおじさんみたいに掻き始めた。沖へと向かって行く。立ったまま、海をゆく。不思議な光景だ。

♬都会に住んでる人たちは 
時には海へ行きたくなる 
 車飛ばしながら ふとそう思う 
 3号線を左に折れ 海へ向かう道に吹く風
 今はもう冷たく 右腕を撫でる   

(風「3号線を左に折れ)

古い歌を思い出してしまった。



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