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つまさき

集団というものに属すると、同じような持ち物を持つことになるから、紛失や取り違えが起こる。記名が必須である。幼稚園に入ったときから、ムスメの衣類、おもちゃ、食器、何から何まで名前を書かねばならない。小学校では色鉛筆のケースに名前を書いて持たせたら、「一本ずつに書いてください」と先生の手紙付きで戻ってきた。そういえば、わたしも小学校入学の時に、算数で使うおはじきの一つ一つに母が名前を書いてくれたのを思い出した。

毎年、毎学期、新しい教科書やノートなどの学用品はもちろん、全ての衣類に名前を書いてきたが、さすがに高校生の下着にまで名前を書くことはなかろうと思っていた。が、甘かった。修学旅行というイベントは全部の持ち物に名前を書かねばならない。

そこで登場したのが百均で買った「お名前アイロンプリント」である。シール状の小さな布に名前を油性ペンで書いて、衣類にアイロンの熱で貼り付ける。衣類に直接油性ペンで描くと、文字が滲んだり、裏側に透けたりして見栄えが悪い。だが、このシールだとその心配がない。

下着も制服のシャツも、タオルやハンカチも、全部記名した。が、問題は靴下である。靴下は伸縮性が命だから、シールを貼ると、一部分が突っ張ってしまう。中学の時は白い靴下だったので、油性ペンで書いていたのだが、高校の靴下は紺色なので、油性ペンで書いても目立たず、名前が見えない。

さらに問題がある。ムスメは感覚過敏で、肌に触れる内側にシールは貼れないし、刺繍などで名前を入れようにもどこに入れればいいのか。外側に刺繍を入れるのであれば、かなり目立つ。足裏やかかとには感覚過敏で無理。
わたしは考えた。

つま先なら、少し余裕がある。そして靴の中に隠れるから目立たない。結び目を作らないように返し縫いをすれば、ゴワゴワにならない。わたしは試しに一足、印をつけてみた。ムスメは「試していい?」と履いてみた。そして「オッケーありがとう!」と喜んでくれた。わたしはムスメの靴下4足に印を縫い込んだ。

そして、今日、学校から戻ってきて、笑いながら言う。「おかあさん、これさあ、すごくいい考えだと思ったんだけどさあ。学校の上履き、スリッパなんだよね。つま先が空いてるの。一番目立つところに印がついちゃってる」

糸、ほどこうか?と聞いたら、ムスメは「いやいや、いいよー。このままで」と言った。それで、修学旅行の終わる日まで、ムスメは「つま先に糸屑がついてるよ」とか同級生に言われるんだろう。





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