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フリフリ

バスで帰った。座った席は、運転席のすぐ後ろだった。なぜかなかなかバスのドアを閉めない。なるほど、信号が赤なんだな。信号が変わるまで、乗客のためにドアを開けているってことか。

運転士が激しく上半身を揺らしている。なんだなんだ。よく見たら、バスを降りた小さな女の子が、運転士の見えるところで、一生懸命手を振っている。幼稚園にも入る前くらいだろうか。つついたらプチンと弾けそうなくらい、まんまるなほっぺ。まだ少ない髪を耳の横で二つに結んでいる。ニコニコ顔もここまでくると、むしろ神々しい。いや、天使か。

そんなふうに手を振られたら、運転士もじっとしてはいられない。手を大きく小さく振りながら、上半身を揺らしている。顔は後ろからは見えないが、多分めちゃくちゃ破顔しているんだろう。背中からもその熱烈な好意が見てとれる。乗客へのサービスの度を超えていて、もはやその女の子のファンになったかのようだ。

信号が変わって、バスが扉を閉めた。その女の子のお母さんらしき女性が、運転士に深々と頭を下げて、女の子の手を引いて去った。運転士はスイッチが切り替わったかのように「発車します」とキリリとした声で言い、バスは動き出した。

バスを降りる時、運転士の顔を見た。わたしよりも若いんだとは思うのだが、一般的に言うおっさんである。生真面目そうな、仕事一徹といった感じの、どちらかというと真顔タイプである。言葉を選ばずに言ってしまえば、このおっさんの心を鷲掴みにして、ああまで手を振らせた女の子の可愛いビームがいかに強力だったのか、と思う。

バスを降りてから、スーパーに向かった。3人の男の子が幼稚園で作ったであろう手作りの鬼の面を頭に乗せて、キャイキャイと笑いながら走ってきた。おかあさん、おかあさん、はやくはやく!と口々に言いながら、スーパーの中に入って行った。さっきの女の子の可愛らしさとはまた別物だが、どの子もやんちゃそうで元気がよい。「静かにね」とお母さんに釘を刺されて、小さな声で「これ?」「これにする?」とお菓子を選んでいる。

いいなあ。無条件に可愛い。でも、わたしは昔、子どもが苦手だったはずなのに。歳をとったせいだろうか。子供の頃から、犬も猫も鳥も花も、とにかく何もかも苦手だったのだが、このごろはどれも可愛いし、美しいと思う。やっぱり歳なのか。

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