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ゆめおち

今日のわたしは、マミコ、マナミと一緒に行動している女子高校生、という設定の夢だ。さびれた商店街の近所に住んでいて、活動拠点はそのアーケード街が中心。同級生の男子が何人も登場するが、全員、私たちに好意的だ。仲良く遊んだり、困った時に相談に乗ったりしてくれる。中でもとりわけわたしに親切な人がいた。

ひょろりと線の細い体で、ベージュのセーターを着ていた。Vネックからボタンダウンの白いシャツが覗いていて、グレーのスラックスも清潔感があった。穏やかで、とても感じのいい人だ。彼はわたしと話をする時、ドキドキしているらしい。不思議な緊張感でわたしに話しかけてくるのだ。だからわたしも、みょうに緊張してしまう。「はい」とか「ええ」とか他人行儀な返事しかできない。他の人には「なんだよう」とか「うっせー」とか言えるのに。

マミコと一緒にシャッターの降りた店ばかりが並ぶ、薄暗い商店街を歩いている。「今日さあ、ヒロトくんがさあ」とマミコが話し始めた。本当に他愛もない話で、頭の隅っこで「女子高生ってこんな話するんだな」と考えている。

わたしはベージュのセーターの彼がなんという名前だったのかを必死で思い出そうとしている。商店街の端っこから、同級生の男子たちが小学生みたいにワーワー言いながら走ってきた。彼らは追いかけっこをしているのか、すごいスピードで走り抜けていく。わたしとマミコはそれを見ながら「あ、山下だ。あ、西岡だ」と、名前を言っていく。

神社に着き、私たちは手を洗いながら、さっきの話を続けている。「あのさ、名前が思い出せない人がいるんだけど。ヒョロっと痩せていて、なんとなく影が薄いけど、いつも優しくて親切な…」と言ったところで、「あ、ハイバラくん?」とマミコが言った。「あの人、いいよねー。ホント、優しいよねー。ふふふ」マミコが好きなんでしょ?という顔でこっちを見る。「マナミとお似合いかな、って思って」と、わたしが苦しい言い訳じみた返事をすると、マミコは笑い飛ばした。「何言ってんの?マナミはもう、結婚してるじゃないすか」えっ。そうだっけ?ああ、そうだった。早い結婚だったよね。そうそう、マナミは結婚してた。だから、今日も私たちと別行動なんだ。私たちは神前でパンパンと柏手を打ち、手を合わせてペコリとお辞儀をした。合格祈願だったのだろうか。

別の日、私たちは3人でマミコとマナミが引退したダンス部のパフォーマンスを見に行った。商店街の外れにある小さな屋外の舞台で、にこるん似の後輩がマイクを持って歌いながらテキトーに踊っていた。あれ?一人?と思っていたら、別の学校のダンス部も続々とやってきて、パフォーマンスを始めた。何かのコンテストらしい。全部の団体が演技を終えた後、表彰式が始まった。いつの間にかうちの学校のダンス部も全員が揃って並んでいたが、他校とは比べ物にならないお粗末な演技だったし、賞はないよね、と思っていた。それが顔に出ていたのか、にこるん似がやってきて、「あっ。マミコ先輩、マナミ先輩!来てくれたんですね♡」と言いながらこっちを横目でチラチラ見ていた。「この人誰ですか」とマミコに聞くと「ああ、この人、ダンス部じゃなかったから、知らないよね」と笑いながら答えて、彼女たちはどこかへ行ってしまった。

雨が降っていた。わたしは、夕方のように暗くてジメジメした商店街の反対側の端っこまで歩いた。アーケードが終わって、その先は飲み屋街だ。いかにも場末の、ボロボロの一軒があり、扉の内側から誰かの歌うカラオケが聞こえていた。わたしは建物の裏側に周り、窓から中を見た。男子が二人、女子が二人。多分、高校生だ。飲み屋でカラオケ…?と思いながらよく見ると、男子の一人はハイバラくんだった。チャラい女子が歌いながら視線を投げかけている。ハイバラくんは、背筋をピンと伸ばしてお行儀よく両膝を合わせて座り、律儀に手拍子をする。その傍で、別の男女がぴったりと体を寄り添わせて座り、手拍子をしている。ありゃ、すごいものを見てしまったな、と思っていると、なぜか後ろからドンと押されて、わたしは店の中へ入ってしまった。

「ハイバラくん、出よう。なんかここにいたら、いけない気がする」とわたしが彼の手をとって店から出ようとすると、後ろから「何すんのよー!」と凄みのある女子の声がした。さっきのチャラい歌声とは全く違う、山姥のような声。いや、山姥の声は聞いたことがないから、本当のところはわからんが、その声を背に、店を逃げるように出た。

そしてなぜか、もう一周、わたしは同じ店に裏側から入り、今度はイチャイチャする男女と、一人になった女子が自分に酔いしれて歌っている脇を、そろりそろりと見つからないように移動し、また扉から出てきた。(このくだりは、必要なかったのではないか)

ハイバラくんとわたしは、土手を上り、高圧電線の鉄塔の足元を歩いていた。薄暗い商店街とは全く別の世界。心地よい風が吹いて、一面の草原は、若々しい緑色で、雨上がりなのか、水滴がキラキラと葉の上で輝いていた。運動靴は濡れてしまったが、景色のフレッシュさの方が心に響いて、足元の冷たさは気にならなかった。空は真っ青で白い雲が浮かんでいる。土手の向こうには川があり、護岸されていない川底には大小の石や岩が転がっている。水しぶきをあげて流れる川は澄んでいる。

そこに、土手から自転車を押して上がってくる井之頭五郎がいた。あっ。五郎さん!と声をかけると、ああもうなんだよという感じで「松重だよ」と言った。マッチゲさん、なにか歌ってくださいよ、と無茶振りをすると「えー、なんで。たったいまフラれたばかりで落ち込んでいるんだよ?」と言って、自転車に跨がり、えっちらおっちらと漕いで行ってしまった。

…という夢を今朝、見たのだった。2400文字もおつきあいいただき、ありがとうございました。

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