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BLUFF

インクトーバー2022 20日目 お題は『ハッタリ』

若い頃、広告の仕事はデータに基づいたアイデアと、洗練された表現、そしてハッタリが大事なんだと教わった。そのハッタリとは、クライアントや消費者に対する嘘とか大風呂敷ではなく、自分にかける魔法のことだ。自信を持ってプレゼンに臨め、という話である。自信のある人の話を人はちゃんと聞く、ということ。ただ、良識あるバランス感覚を持つべし、とも言われた。

わたしはいつの間にか広告の仕事から遠ざかってしまって、そのメソッドを活かす場がない。そのかわり、今はフリースクールで生徒の前に立って話をする機会が増えた。小中学生の目はいつも澄んでいて、鋭い。どうしようもなくつらい目に遭ったり、声に出せない感情をどうしていいかわからなかったり、彼らなりにどん底を体験しているので、大人に対するジャッジが厳しいのだ。ハッタリはすぐにバレてしまう。

表面的に「みなさんのことわかってますよ〜」という態度は見透かされてしまって、口もきいてもらえない。初めの頃は「わたしはあなた方に危害を加えません」というオーラを全身から発しつつ…とか思っていたけれど、そんなのも通用しない。ただ「大丈夫、わたしが自分を偽らなければ、この人たちは話を聞いてくれる」と自分に言い聞かせて、自然体を心がけている。今では口をきいてもらえないレベルから、「帰りまーす。さよならー」と言ってくれるくらいにはなった。

ところがここ数週間、わたしの心が別のことに振り回されて、すっかり迷子になってしまった。弱りきったメンタルで生徒の前に立つわけにはいかない。わたしは自分にハッタリをかける。彼らの前に立つ時だけは「悩みのない、元気なわたし」を演出している。ハッタリが浮上のきっかけになるか、それとも乖離した心情に拍車をかけて沈んでいくか。

水星の逆行が終わったから大丈夫、と言い聞かせる。

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