見出し画像

だれかが

夕方、ムスメの学校から電話があった。何事かと思ったら、PTAの係になってくれないか、という話だった。

実は昨年、入学式のあと、保護者は各クラスごとに集められ「今ここでPTAの係が決まらなかったら、生徒のいるホームルームに行くことができません」と担任が言った。なんですと!予想はしていたが、40人あまりの保護者は誰一人として手を挙げない。若い女性の担任が「本当に、できる範囲だけのことでいいので、お手伝いしていただけませんか」と懇願するが、みんな先生と目を合わせようとしない。わたしはムスメの友だちSちゃんのママと目が合った。「じゃあ、一緒にやりますか」と一瞬で決まった。高校だから、多分、やることはそんなに多くないはず。

結局、緊急事態宣言だのまんえん防止措置だので、全ての行事が中止となってしまったので、わたしたちの出る幕はなかった。一回も会合に出ることもなく、行事の手伝いをすることもなく、ただ名簿に名前だけが載った。わたしは仕事が怒涛のように忙しかったので、そのことすら忘れていた。

春休み、スーパーでばったり会ったSちゃんのママが、「来年度、同じクラスじゃなかったら、もうわたしは手を挙げる勇気はないなあ」と言った。わたしも、「そうだね。心細くなるよね」と相槌を打った。

今日の電話で、「昨年度はPTAを引き受けてくださって、ありがとうございました。で、ご相談なんですが、今年も引き続きお受けいただけませんか」と、新担任が言う。わたしは気楽に考えて「いいですよ」と二つ返事に承諾した。「ただ、仕事があるので、本当にできる範囲のことしか参加できません」と言うと、担任も「いやいや、本当に、それで十分です」と電話の向こうで頭を下げているかのようだ。

結局、誰かがやらねばならんのだ。犠牲になっているつもりはないが、お役に立てることがあるなら、という気持ちは嘘じゃない。世の中には、そういう気持ちがちょっとずつ集まることでしか、動かないものもある。

ムスメが家に帰ってきて、「担任の先生がね、お母さんと電話で話したけど、いいお母さんだね、って言ってた」と言う。「PTAを引き受けたから?」と聞き返すと「わかんない。でも、いい人だねって言われた」と答えた。
はて。いい人なのか、お人好しなのか、どうだか。

そういえば、今年はSちゃんとは別のクラスになった。Sちゃんのママはもう参加しないだろう。ちょっと心細くなってきた。

サポートいただけたら、次の記事のネタ探しに使わせていただきます。