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あっこちゃんと珍道中 ①大英博物館

大英博物館に行ったことがある。もう、ずいぶん昔のこと。

あっこちゃん、という年上の友だちと二人で出かけたイギリス旅行は、わたしの数少ない海外旅行のスタートラインだ。あっこちゃんは、イギリスをこよなく愛しており、いずれ住むことを真剣に考えていた。わたしは物見遊山だったのだが、本気の人と一緒にいくことで、ずいぶん勉強になった。(とはいえ、観光客目線でしかないのだが)あっこちゃんが英語ペラペラなので、わたしは安心しきって、のんきについて行った。

大英博物館は絶対に見るべきよね、と、出国前から決めていたので、わたしたちは朝イチから張り切って出かけた。当時、ロゼッタストーンは入口すぐの場所にあって、わたしは教科書で見たことのあるその歴史的な存在に「おお!」と喜び勇んで突進した。そこには手すりこそあったが、盤面はむき出しで、本当に身近に見ることができた。「見て見て!あっこちゃん!ここ、欠けてるよ!」と、わたしが指差して盤面に触れた瞬間、「DON'T TOUCH PLEASE!!」と野太い声が響いた。振り返ると、アフリカ系のでっかいガードマンが強面で仁王立ちしていた。わたしは首をすくめて「I'm sorry.」と、数少ない知ってる言葉を声に出した。おそらく、あの旅行で最初に英語を使った記念すべき瞬間だ。

大英博物館はとにかく広くて、一日では見終わらない。しかし、他にも行きたい場所があるので、本当に駆け足で見て回った。「おー。ミイラだ」「おー。これなに?」「えー。これなに?」歴史に疎いわたしはほとんどの展示物を「なに?」と思っていた。(その後、日本で「大英博物館展」が巡回した時、「あー、あれか」と思うのだが)

ランチはミュージアムカフェで、甘々のケーキがついたセットを食べた。隣のテーブルには上品なおばあさまとその孫が座っていて、金髪のお人形みたいに可愛らしいその子が、アジア人が珍しいのか、こちらを見ていた。わたしはあっこちゃんに頼んで「好きなジャンクフードは何?」と聞いてもらった。地元の子どもが好きなお菓子をお土産にしようと思ったのだ。その子は照れながら「ハンバーガー」と答えてくれた。まるでおばあちゃまに聞かれたくないわ、という感じで。わたしは、え?お菓子じゃないの?とあっこちゃんに聞き直したら、「ジャンクフードはお菓子だけじゃなくて、軽食なども含まれるのだよ」と教えてくれた。なーるーほーどー。勉強になりました。そこでおばあさまが「いやだわ、ハンバーガーなんてねえ」みたいにほほほと笑って、わたしたちもそれに合わせるようにほほほと笑ったが、女の子に悪いことをしたな、と思った。

 その旅行からしばらくして、あっこちゃんは本当にイギリスに渡った。留学したのだ。その後、いくつかの職を経て、今の職場は大英博物館のそばにあるという。久しぶりに帰国したあっこちゃんに、「どう?イギリスの生活は?」と聞いたら「そんなことよりもさ」と目を輝かせて教えてくれた。「ロゼッタストーンは今、ケースに入れられているよ」

あちゃー。そうでしたか。すみませんでした。(つづく)


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