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連鎖

16年前にここに引っ越してきたとき、家の周りはボロボロの塀に囲まれていた。コンクリート塀で、日陰がジメジメとして苔だかカビだかが生えているようだった。そこに、猫がたくさんのフンをしていった。地面が濡れているから、砂をかけることもない。片付けるのが大変だった。

引っ越して半年後、福岡西方沖地震のとき、その塀が倒れた。鉄筋が入っていなかったのだ。大家さんは全ての塀を取り除き、3年後には、うちの向かいにあった古いアパートも取り壊して、敷地を一新した。

うちの部屋の前には庭ができた。「小さい子がいるから、庭をこしらえてあげよう」と、いつ退去するかもわからないわが家のムスメのために、粋な計らいがあった。

その庭は真砂土で、子どもが砂遊びをするには都合がいいが、猫のトイレにも都合が良かった。それでわたしは庭一面にクローバーのタネを蒔いた。草が生えると猫はトイレではないと思ったのか、来なくなった。クローバーの花が咲く頃は、庭が緑色の絨毯を敷いたようになり、ムスメが花で冠を作ったり、四つ葉のクローバーを探したりして楽しんだ。

クローバーは土を肥やすそうで、小さな虫も集まってきた。てんとう虫、バッタ、やがて何になるのか小さな芋虫も這うようになった。するとそれを狙って、小鳥が来るようになった。朝からかわいいさえずりが聞こえ、大変心地よかった。

ところが、である。今度はその小鳥を狙って、猫が来るようになったのだ。何だこの連鎖は。猫を避けるために植えたクローバーが、やがて猫を誘き寄せるとは。それで再び、猫のトイレ掃除をしなければならなくて、わたしは悔しかった。

忙しくて庭の雑草取りをしないまま、数ヶ月が経った。よもぎとミントが大繁殖した。猫は来なくなった。しめしめ、と思っていたのだが、よもぎとミントだけでなく、多くの雑草がはびこり、クローバーは少しずつ侵食されていった。

この2ヶ月のうちに、わたしは庭のよもぎとミントを随分抜いた。するとサラサラの土が顔を出してきた。砂埃が舞うような風の強い日、庭を見るとわずかに表面が盛り上がっていた。

猫だ。猫のトイレが復活したのだ。この連鎖から抜け出したいのだが、どうしても猫がウロウロとわが家の周りを歩いている。毎朝、庭のチェックをすると、薄く盛り上がった地面をスコップで掘るところから1日が始まる。





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