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理科の見方・考え方を働かせて資質・能力を育成する手立て1

理科の見方・考え方

平成29年版小学校学習指導要領解説理科編においては、理科の目標として、児童が「理科の見方・考え方」を働かせて、観察・実験に取り組むことで、資質・能力を育成していくことが示されています(文部科学省,2018)。

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このうち、「見方」とは、自然の事物・現象を捉える視点であるとされ、理科の四領域それぞれに特徴的な見方が整理されています。例えば、地球領域では、「時間的・空間的な視点で捉えること」が、見方として示されています。

一方、「考え方」とは、児童が問題解決の中で用いる様々な考え方であるとされ、問題解決の過程に対応して4つの考え方が整理されています。例えば、変化させる要因と変化させない要因を区別する考え方として「条件を制御する」考え方が示されていて、これは観察・実験の過程に対応するものと考えられます。

これら「見方・考え方」を児童が働かせることで、資質・能力の育成を目指という訳ですね。でも、児童が「見方・考え方」を働かせる姿というのは必ずしも具体的ではないです。そこで、児童が「見方・考え方」を働かせた際の具体的な姿や、それらの姿を引き出す教師の手立てを示すことを、この記事の1つ目の目的とします。

また、児童が「見方・考え方」を働かせることが、どのようにして資質・能力の育成につながるかについてもこれまであまり議論されてきませんでした。なので、「見方・考え方」を働かせることで、資質・能力が育成されるメカニズムを示すことを、この記事の2つ目の目的とします。

教師の手立てと児童の姿

今回は、1つ目の目的を達成するために、第6学年「土地のつくりと変化」の単元を例として、児童が「見方・考え方」を働かせた際の具体的な姿や、それらの姿を引き出す教師の手立てについて検討していきます。

読者の先生方は、この単元の導入をどのように始められているでしょうか?もしお手元に教科書があれば、この単元の最初のページを開いてみてください。

どの教科書でも、最初のページに地層の写真が大きく掲載され、キャラクターが吹き出しで、地層の縞模様やその成り立ちについて不思議がる様子が掲載されていると思います。でも、授業で子供からこんな発言は自然と出てくるでしょうか?

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地球領域の主な見方が、「時間的・空間的な視点で捉えること」であることから考えれば、導入場面では、時間的に長い年月をかけてこのような地層ができたことや、地層の空間的な広がりに目を向けさせたい。でも、地層を見せるだけでは、そのような見方を働かせられない児童もいます。全員が、教科書のキャラクターのような問題を見出すわけではない。ここで、教師の手立てが重要となる訳です。

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見方・考え方を働かさせる手立てには、教師が誘導するものや環境によって喚起されるものなど、様々なものがあるでしょう。

今回の単元で私は、地層の写真を見せる際、「何か似ているもの見たことない?」と問いかけ、写真のような体育館のマットの様子を併せて見せました。

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すると、地層とマットを「比較」する考え方を働かせた児童が、地層の写真を新たな視点で見始めます。具体的には、

C1「マットの色が違う。地層も色が違うから分かれて見える。」
C2「地層もマットみたいに重なってできてる。」
C3「最後に重ねたマットが一番上になっているんだから、地層も一番上の草が生えているところが新しいのかも」
C4「マットみたいに、奥まで真っ直ぐ広がっている?」

といった発言が出てきました。これこそが、児童が「見方・考え方」を働かせた姿だと言えるのではないでしょうか。ここで私が用いた手立ては、児童が類推と呼ばれる類似性に基づいた推論を行うことを期待したものです。このように、言葉による働きかけでなくても、問題事象との出会いを工夫し十分な思考時間をとることで、子供の見方を引き出すことができます。

資質・能力の育成とのつながり

では、児童が「見方・考え方」を働かせることが、どのようにして資質・能力の育成につながるのだろうか。第二の目的を達成するために、先ほどの実践の続きを例に資質・能力とのつながりを検討していきます。

私は、地層の堆積実験までを終えた後、層が分かれて見える理由を子供に問いかけました。すると、「重い粒がはやく落ちるから」と言い出す子供が現れ周りも同調し始めたので、「それが見えたの?」と揺さぶりをかけてみました。

C5「重い粒がはやく落ちるから」
T「それって見えたの?」
C6「一瞬すぎて見えない」
T「そもそも、この実験のやり方でよかったのかな?」
※本物の地層の写真と海の断面図のイラストを示す
C7「深さが違う」
C8「大きさが違う」
C9「もっと時間がかかってる」

ここでは、教師の揺さぶりによって実験を振り返らせ、「時間的・空間的」な広がりを意識させたり、実験方法に問題はなかったかを「多面的に考え」させたりしています。こうして、実験方法が不十分であったという意識が共有された後、追加実験を行いました。

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追加実験では、長さ1mのアクリルパイプに水を満たし、れき・砂・泥の3種類の粒を上から落とし、落下にかかる時間を記録しました。そして、粒の種類ごとに平均的な落下速度を計算し、粒の大きさによってどれほどの差があるかを考察しました。こうして導かれた考察は、粒の種類ごとの落下速度の違いを、具体的な数値によって議論するものになります。これは、C5の「重い粒がはやく落ちるから」という考えに比べて、より科学的に妥当な考えだと言えるのではないでしょうか。

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新学習指導要領で育成が目指される3つの資質・能力のうち、「知識及び技能」に当たるものとして、この単元では、「ア(イ)地層は、流れる水の働きや火山の噴火によってできること」を習得させる必要があります。今回の実践事例では、地層ができたという結果だけでなく、水中で地層ができるプロセスを時間的・空間的な視点で捉えさせることで、より深い理解につながっていると考えています。

 「思考力、判断力、表現力等」に当たるものとしては、「イ 土地のつくりと変化について追究する中で、土地のつくりやでき方について、より妥当な考えを作り出し、表現する」力を育成する必要があります。今回の事例では、「時間的・空間的」な広がりを意識させ、実験方法に問題がなかったかを「多面的に考え」させることで、追加実験へと繋ぎ、地層のでき方についてのより妥当な考えを導くに至っています。

 「学びに向かう力、人間性等」に当たるものとしては、粘り強く問題解決に取り組み、自らの学びを調整する態度を涵養する必要があります。粘り強く問題解決に取り組む姿としては、実験結果に満足せず、「多面的に考え」ようとすることや、複数回の実験を行い正確に記録しようとすることが、粘り強く問題解決に取り組む態度の涵養につながるものと考えられます。自らの学びを調整する態度としては、一連の問題解決過程を自ら振り返り、実験方法に問題がなかったかを考え、周囲に同調し流されるのではなく、自ら課題を見出して取り組んでいこうとする中で涵養されていくものです。その際には、自身の思考過程を振り返るメタ認知や、実験方法や結果を吟味する批判的思考が重要になってくるでしょう。

まとめ

この記事の目的は、児童が「見方・考え方」を働かせた際の具体的な姿や、それらの姿を引き出す教師の手立てを示すとともに、どのようなメカニズムで資質・能力の育成につながるかを検討することでした。目的を達成するために、「土地のつくりと変化」の単元を例に検討を進めてきました。

具体的には、①導入の場面では、類似性を基に比較して考えさせることで、児童の見方のつぶやきを引き出し、問題の見出しにつなげられること②考察の場面では、現実(本物の海や地層)とモデル(堆積実験器)を比較させることで、実験方法を再検討し、多面的に考えることで、より妥当な考えにつなげられることの2点を示しました。

最後にこの記事の課題も述べておきます。今回紹介した実践例では、教材の工夫や教師の発問によって児童が「見方・考え方」を働かせることを意図していますが、児童自らが意識的に「見方・考え方」を働かせるまでには至っていません。今後は、理科の「見方・考え方」を自在に働かせる児童の姿を検討していく必要があるでしょう。

原稿初出:初等理科教育 2019年4・5月号(会報)

スライド初出:SSTA広島支部2019年6月9日




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中村大輝。専門は理科教育、教育心理学。教育の理論と実践をつなぐことを目指しています。URL:https://researchmap.jp/daikin

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