観劇記録vol.2 ひとりしばいvol.3 北村諒×西田大輔

2020.7.4 17:00〜
ひとりしばいvol.3
脚本・演出:西田大輔
制作:Office ENDLESS
出演:北村諒 
配信プラットフォーム:zoom

 久しぶりに舞台の上に立つ推しが観れる〜!!というアレでした。舞台上にいる推しを見るのは実に3ヶ月ぶり。3月末のヒロステの幻の大阪公演。こんなにながい間推しを観ないのは本当に久しぶり。
 しかも西田大輔さんはわたしの一番好きな演出家さん。多大に推しの影響を受けているのもあるけど、太陽の子もRe:フォロワーもすごく好き。

 本編の話に移ります。

ひとりシャドウストライカー、
またはセカンドトップ、
または、ラインブレイカー


 これがひとりしばいのタイトルだ。これらは全てサッカー用語から来ているらしい。わたしはサッカーに詳しくない。

 これは、ひとりの男の人生の物語。幕(実際には配信なので幕はないけど)が開いて、客席にひとりの男。
 スポットライトに照らされる推しを久しぶりに見た。舞台は始まらない。そこには壁があるから。あなたがそれを望まなくても、世界がそれを望むから。世相を写しとったような口上に涙が出た。

 そして、配信舞台ならではの演出がひとつ。『シャボウスキー』だ。『シャボウスキー』は男の親友のねずみだ。移動式のカメラが『シャボウスキー』の視界の役割を果たし、地面すれすれを動いたりする。

 男の一人語りで物語は始まる。おそらく1930年代のドイツ。察しがいいひとなら気付くだろう。ナチ党がドイツを取り仕切っていた、ファシズムの時代だ。物心ついたときには目が悪く、そのせいで友達も恋人もできなかった少年は、ときの宣伝相、ゲッペルスに憧れていた。小さな体で、言葉だけで、腕の太い屈強な男たちを操るゲッペルスをかっこいいと思っていた。
 そんな彼の唯一の友達が、屋根裏部屋のねずみである『シャボウスキー』だった。

 そして、彼はある男と出会う。芸の下手な大道芸人で、2番は1番を持論とするいつも笑っている男。彼はその男をセカンドトップと呼んでいた。2人はいつも一緒に遊んでいた。
 そんななか、第一次世界大戦が始まった。大人たちは徴兵されて、さらに例のユダヤ人狩りも始まった。セカンドトップはなかなか戦争に行かなかった。どうしてレニングラードにいかないのか、という質問にはいつも、友達だからだよと返してくる。ある日ついに言ってしまった。どうして行かないの、弱虫なの、それじゃあ問題の人種に間違われてガス塗れだ!セカンドトップの顔から笑顔が消える。そして言った。「僕が問題の人種なら、友達を辞めるかい?」

 観客のわたしにはなんとなく予想はついていた。それでも、セカンドトップとしてその台詞を言う悲壮感の漂う表情。震える声。赤い照明でできる陰影。きれいで苦しい。

 彼は強がっていえなかった。セカンドトップはレニングラードに行くと言って姿を消してしまった。
 そして4年のときが過ぎ、髭の悪魔は死んでドイツは無条件降伏、分割されてしまった。

 彼はその後出版の仕事に就き、そして出世して編集長になり、議員にまで上り詰めた。
 そんななか、ベルリンの壁の側である少女と出会う。体の弱い母親から父親が壁の向こうにいると聞かされていた少女は壁を壊そうとしていた。だから彼女にはラインブレイカーと名前をつけた。いつか壁を壊そう。そう約束をして、2人は壁を壊す特訓を始めた。少女も学校に友達はいなかった。でも、野ウサギの友達がいた。その名は『シャボウスキー』だ。悪い政治家から名前を取ったらしい。ある日、少女は言った。「わたしが壁を壊してあげる。」と。そしてその翌日、彼女は壁の側で撃たれて死んだ。
 
 そしてドイツでは壁を壊すデモがあちこちで起こり始めた。議会は、壁の移動の緩和を決めるための会議を開くが、彼はそれを欠席した。なぜなら、彼はただのスポークスマンに過ぎなかったからだ。

 記者たちが言う。東と西はどうなるんですか、ひとつになるんですか!答えてください!

シャボウスキー氏!

 そう、シャボウスキーとは彼自身だったのだ。

 彼は演台に立っていう。東西の移動を認める、私の認識では直ちに。

 世紀の勘違いで、ベルリンの壁は崩壊してしまったのだ。これが彼の人生の話だった。


 

 わたしは世界史の知識が乏しく、シャボウスキーという名を聞いても分からなかったので、最後記者がシャボウスキー氏!と言った瞬間鳥肌が立ちました。

 歴史で語られる、大きな流れ。それとは別に個人にスポットライトを当てたときに見えてくるものがある。このお話のシャボウスキーが、ベルリンの壁を壊すきっかけを作ったのは本当にただの勘違いだったのか、もしかするとわざとだったのかも、だなんてことも考えられる。

 1時間、ひとりだけで舞台に立ってわたしたちを魅せてくれた諒くんの凄さ、また1時間で重いテーマを扱いきった西田さんの実力。このふたつが合わさったからこそ生まれたものだと思いました。やっぱり西田大輔の世界で生きる北村諒が大好きだ!!

 それに、やっぱりわたしは舞台が好きです。いろんな色の照明、シーンにあった音響。うまく挟まれる映像。そして舞台を彩る小道具と衣装。空っぽの客席と広い舞台に、ひとりの役者。
 舞台という空間でしかできない演出。今回の配信ならではのカメラワーク。全部ひっくるめて、舞台が大好き。

 早くあの座り心地のあんまり良くない客席に座りたい。暗転中の蓄光テープを凝視したいし、眩い逆光照明に目をくらませたい。舞台のうえの熱気にあてられて、こっちまで熱を感じたい。

 早く舞台に行きたいなあ。

 

  

 


 

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