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「見えないを見る」を終えて: 自然電力 井上大介さん

2020年2月に、当時在学していた国際基督教大学で開催したイベント「見えないを見る〜衣・食・住・エネルギーから探る、これからの暮らし」。イベント後に参加者から寄せられた質問を中心に、4人の登壇者に事後インタビューを実施しました。
1人目は、「エネルギー」の分野でご登壇いただいた自然電力の井上大介さんです。

「見えないを見る」を終えて

--先日のイベントにご登壇くださりありがとうございました。クロストークから、何か新たな気づきはありましたか?

井上:先日はお世話になりました。イベントを通して得られた視点としては、まず本質的な価値を大事にしている人たちと話すことで自分の分野で大事にするべきことがわかったことです。やはり自然エネルギーを増やしていく、そしてそのために自然エネルギーへの理解を広げていくことがまずは大切であると改めて感じました。

全体クロストークのお題にあった「小さく初めて、大きくするにはどうすればいいか?」という質問は意見が分かれましたね。あれはいい質問でした。分野や目的によって答えが変わるということだと思います。
小さな取り組みが大きく成功していく例もありますが、小さな取り組みがスケールをそのままに広くいろんなところに広がっていくというやり方もある。今の時代にはむしろそういった展開の方が合っている気がします。自然エネルギーの分野で言えば、やはり自然エネルギー比率全体の底上げをするには広く広げる必要もある。しかし、今までの中央集権的なやり方では限界があることも皆感じてきています。そういった状況の中で巨大な発電所だけではなく、小さな発電所が広く広がって上手に管理され、電力の発電と供給のあり方が分散型になっていくということだと思います。
また、再生可能エネルギーの発電方法も様々な多様性が生まれる時代になるのではと思います。今は太陽光と風力がメインですが、日本にはバイオマスもあるし、小水力や地熱というように日本で使える自然資源はまだまだあります。
お二人(インタビュアー/主催者)はあの質問についてどう考えましたか?

--(臼井:)そもそもあのお題を設定したのは、社会の中に環境に配慮した生活の価値観を浸透させていくには「大きく広げる」ことが必要だと前提として考えていたからです。大学で環境系の団体に所属したことがありますが、やる気があってもキャンペーンの周知やイベント集客などに手惑ってなかなか広がらず、メンバーたちの気持ちも萎えて…また企画しても人は集まらず…のような悪循環に陥ったことがあります。そのような経験が元になって、何か思いを伝えるには、広げて多くの人に伝えることが絶対的に良いと考えるようになっていたのだと思います。
だから余計に、登壇者の方々の「大きくする必要ないんじゃない?」の言葉にハッとさせられました。強い思いを共有しあい、皆が同じ熱量で向かっていけるような組織の方が小さくても社会を変える力を秘めているのだと考えさせられました。

(吉岡:)私は割と「大きく広げて今あるシステムに少しでも大きな変化を与えることで社会を良くしたい」と考えるタイプでした。というのも気候変動の問題は緊急の問題です。迅速に変えていくにはやはり少しでも大きな変化を生み出していかないと考えていました。でもクロストークを聞いて、大きくしなければいけないという価値観が揺らぎました。
大きなシステムに変化を与えていくにはどうしても時間がかかります。ステークホルダーが多いとその分だけ交渉に時間がかかりますし、ステークホルダー全員がWin-Winになる解決策ってなかなかありません。
それだったら小さな規模でとにかく成功体験を積んでいき、それを広く横展していくことが理想的だなと考えるようになりました。

--今回のイベントにはいろんな参加者の方が来てくださっていましたが、自然エネルギーをもっと広げていくためのヒントは得られましたか?

井上:そうですね。まず前提として自然エネルギーを普及させるには、私たち消費者の理解促進から意識改革は絶対的に大事ですが、同時に政策面が自然エネルギーを全面的に推進していく方向で整ってこないことには非効率的です。実際、発電所づくりはかなり制度に左右されます。そのためには、まず地道に発電所を作っていき、しっかりと実績を積み重ねていくのと、みんながエネルギーを自分ごと化していくことが必要です。
民主主義では政治を変えるのは民衆の声なので、自然エネルギーを支持してもらえるように、地道になぜ自然エネルギーへの転換が必要なのかを伝えていくしかありません。
支持を広げるということに関して今回のイベントで気づいたことと言えば、食にしか興味がなかった人が、それぞれの共通項を起点にもともと関心のなかったエネルギーにも興味を示すようになる可能性を感じましたし、分野が違う人が横断的に繋がり合うことによって物事を多角的に見やすくする事で自然エネルギーの理解が結果的に広まるのではと思いました。どんな分野でも目指すべき姿が同じような「分散型」に行きつくんじゃないかとクロストークをしてみて感じました。この点においては、他業種との横の繋がりを強めていく事は有効だと思いました。

--地域で発電するということを根差すには何が必要だと思いますか?

井上:それぞれの地域の未来の豊かな暮らしを作るための電力なんだという認識づくりはまず必要です。その上で、我々自然電力は地域と共に発電所を作らせていただく立場なので、エネルギーというツールを使って今ある地域の切実な困りごとを一緒に解決しながら、多様な地域の自立を目指し、結果国全体が豊かになっていくことを伝えていくことが大事です。
実際、発電所を作るときは地域の要人にご挨拶をしに行きます。地域の方々との関係・信頼が全てなので、まず地域の人としっかりコミュニケーションを取っていく。その上で発電所が完成した暁には、エネルギーが生み出す利益を活用してこの地域のために何ができるかを真剣に考えます。例えば、より安い電気をご提供できれば、余ったお金で地域の方々が新しいことに挑戦する事だってできます。
自然電力ではエネルギーを通して地域を応援するために「1% for community」という発電所の売電収益の1%相当を地域に還元する取り組みを行っています。こうした取り組みが地域の課題解決に繋がるという成功例をきっかけに、さらに多くの地域の課題解決になれば、冒頭の「小さく始めて、大きく広げる」に繋がっていくと信じています。

--本当の意味での分散型のエネルギーシステムを作るには、単純に地域で電気を生産するだけでなく、その収益が地域を循環することが大切なんですね。さて、イベントの事後アンケートで登壇者への質問を受け付けたところいくつか井上さんに質問が来ていますのでここからはその質問に答えていただきたいと思います。

日本の自然エネルギーのポテンシャル

--自然電力発電の面において、日本は立地条件・環境条件的に恵まれていると聞いた事があります。様々な面で大きなポテンシャルがあると思いますが、日本の教育機関(将来のエンジニアの卵の育成場所)、企業や政府はこの現状にどれだけ気付いているのでしょうか。

井上:もちろん政府を含め誰もがこの事実には気づいていると思います。日本において自然エネルギーの拡大が海外のエネルギー先進国ほど進まないのは、やはりエネルギー市場が日本経済と密接に関係していることと、それに伴う適切な制度設計の遅れが主な問題と思っています。例えばドイツは制度設計が早かったので現在日本の10年先を行っていると言われます。日本は2011年の福島の事故から再エネに舵を切りましたが、ドイツはもっと前から電力市場の自由化や、発送電分離などの自然エネルギーの拡大に必要な制度設計を進めていました。いくらビジネスサイドがやりたくても、経済性が保てないとか制度上でリスクがある状態では市場は動けない。しっかりとしたビジョンを持って制度を設計していく必要があります。例えば、日本を含め世界ではまだまだ石炭火力などの発電所に対する補助金が多く拠出されているといいます。制度によって生み出されるお金の流れをより自然エネルギーにとって公平なものにしていくことが重要です。
日本には確かに自然エネルギーの高いポテンシャルがあります。例えば、地熱発電のポテンシャルは世界でもトップレベルです。それでも地熱発電が普及しない理由は、その資源が自然公園の中にあることや、景観や水を汚したくないなどといった理由でステークホルダーから反対が少なくないのではないかと思います。なので、そういう局面でも長い目で国として豊かになる形を科学的にもしっかり検証しながら、時には制度で後押ししながらしっかり前に進めていくことが重要です。

--企業側の意識は何か変わっていますか?

井上:日本でも大企業を中心に、「RE100」という事業活動で消費するエネルギーを全て自然エネルギーで賄うという宣言をする枠組みに参加する企業が増えてきていますし、同様に「RE100 Action」という中小企業の枠組も発足しました。でもまだ一部の企業にとどまっているのが現状です。やはり外資系グローバル企業はどんどん再エネを採用している状態なので、一足早いです。
一方で、そういう枠組にとらわれず、中小企業の中で意識の高い企業は、自主的に今より高くなっても自然エネルギー電力プランを選んでくださる場合もあります。自然エネルギーの電力プランという選択肢があることがもっとしっかりと周知される必要がありますね。

--なるほど、ありがとうございます。では、私たちの次の世代がエネルギーを使うときに、再エネを使うことが当たり前になっている社会であるためにできることはなんだと思いますか?

井上:まずは、小さなことでもいいので、自分が環境のために何ができるかを考えてみることが大事だと思います。これが自分ごと化の第一歩だと思います。例えば、まず電気を自然エネルギーに切り替えることです。しかし、電気を切り替えて家の中で自然エネルギーを使えるようになったとしても、外に出たら自然エネルギーを使えるとは限らない。バスや車から出るCO2はどうしたら個人が減らせるか分からないし、ゴミの焼却は大量のCO2を排出します。これらの脱炭素化はなかなか難しいです。じゃあ、なぜそれが難しいのか、それらの社会の仕組みはどうなっているのか、解決策は何があるのかということを学ぶこと、それらについて人と話すことができると思います。対話することで客観的な視点をもって学ぶこともできます。


--再生可能エネルギーは、作られる過程が目に見えるところがいい一方で、大きな施設が地元にできることで今までの景観が失われてしまうことに抵抗がある人もいますよね。どう向き合っていけば良いのでしょうか?

井上:反対する人とどう向き合うべきなのかということは、地域でエネルギー事業をする上で非常に大事な課題です。反対する人は「総論賛成・各論反対」というのが大体です。彼らがどの部分に反対しているのかをまず聞くことから始まります。反対する理由としては、景観や電磁波などの健康被害への不安がが多いです。アプローチの仕方は様々ですが、まずはしっかりメリットをを示すことが大事です。そして、「暮らしを豊かにしたいんだ!一緒に街を作りたいんだ!」ということをしっかり伝える。その上で場合によっては折衷案を見つけること、しっかり向き合って根気強くコミュニケーションを取り合う必要があります。あとは完璧なゾーニング(特区のようなエリア)をすることで、発電所を人の生活エリアから外すことによって反対が起こるリスクを大幅に低くすることは可能です。

「お金を稼ぐ」ということ

--井上さんにとって、「お金を稼ぐ」ことにはどんな意味がありますか?

井上:若いお二人はどう思いますか?

--(臼井:)お金はないと生きていけないけれど、だけどあるからと言って、絶対幸せになるとは限らないのではないかと思います。一定の値まではお金があれば幸せになれるが、それ以上はどれだけお金をもらっても幸せには繋がらないというデータを見たことがあります。それはお金は幸せになるために必要な条件ではあっても、それだけでは十分に幸せとは言えないということではないかなと思います。お金以外にも幸せの指標は人それぞれ沢山あるのだと思います。

(吉岡:)そうですね、これって、何をもって人は幸福になれるのか?という議論につながると思います。高校生の時に10日間ヒッチハイクで西日本を旅した経験があるのですが、その時に幸福感は親切心のキャッチボールから生まれるんだと気づきました。親切を受け取る側は確実に幸せな気分になりますが、実は親切をする側にも幸福感が生まれるんだと知りました。私はドライバーさんに助けてもらって一方的に親切を受け取る側でしたが、よく見るとドライバーさんも僕を乗せることでなぜか楽しそうにしている。
やっぱりお金を介さないコミュニケーションが大切ですよね。

井上:お金の歴史を振り返ると、最初は物々交換だったものを貝殻や石でモノの価値を現すようになって、それから硬貨が出てきて、いまやビットコインみたいなものもあります。ただ、ずっと変わらないことはお金=物の価値を表しているだけということです。結局お金を持つから幸せになれるのではなく、お金を使って何をするかに答えはあると思います。つまり自分次第。何がしたいか、どんなことをお金を使って生み出したいか。そこから逆算してお金を稼ぐこと、それを使っていくことができれば自分が求める成果が得られるはずです。

お金はツールなので、そのツールをうまく使えば自分のできることの幅が広がります。逆にお金がないと、その選択肢も減ります。なので、自分に適切な量のお金を稼ぐことは大事です。
とはいえ、よく考えてみると大金がなくても普通に生活はできます。自然の力を最大限使っていくことでで十分豊かに生活できると思います。例えば、サーフィンは板だけ買えば、海はタダなのでずっと遊べる。それって結構すごいことですし、安いけど満足度は高い。そういう考え方で自分の豊かな暮らしを考えるのはこれからはより大事になっていくと感じてます。
自然エネルギーでの発電も自然の力を使って生活することの一つです。初期投資はかかることはありますが、燃料代という概念がない(太陽はタダ)ので、減価償却が終わればタダの電気をつくることができます。電気代がタダ同然の社会がくるかもしれないということです。

--なるほど。自然をもっとうまく使って生活できるようになれば、もっとお金以外の方法で幸福感を得られる可能性が広がっていきますね。
今日はありがとうございました。

(インタビュー:吉岡大地、臼井里奈)

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