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TikTokに感じる、サンプリング的な音楽の切り取り方


「あ〜、この曲だったのか……!」

Apple Musicで音楽を聴いていて、点と点が線でつながったような感覚になった。

TikTokで流行る「Unlock It」

このとき聴いていたのはイギリスのシンガーCharli XCXの『Pop 2』。2017年にCharliが出したミックステープだ。このアルバムに収録されている「Unlock It」を聴いて、最近TikTokでよく使われている楽曲であることに気づいた。

TikTokでは"Lock It Dance"と呼ばれ、歌詞の「Lock it, lock it…」の部分で拳銃(?)のような人差し指と中指を突き出した指のポーズとともに腰を振るダンスが流行っている。

ある楽曲に対して、決まった振りのダンス動画や特定のテーマの動画をアップする。TikTokの世界には、このように、TikTokユーザーにはお馴染みだろうが、そうでない方には全く伝わらない、独自の流行が無数に存在する。そしてその流行は急速に移り変わっていく。

さてこの「Unlock It」、アルバムではリード曲扱いになっていたようだが、決してCharliの代表曲ではないと思う。最初にあげたYoutube動画も、TikTokでのヒットを受け、今年になってCharli XCXの公式チャンネルがビジュアライザーとして出したようだ。

しかし、2017年の発表曲が、なぜこのタイミングで流行っているのか疑問である。

私自身としては、Charli XCX『Pop 2』のアルバム自体はリリース当時にライブラリに追加していたようだが、あまり聴き込まずにここまで来た。

また、TikTokでもよく目にしており、投稿には楽曲名も表示されているのだが、Charliの曲ということに気づいていなかった。

TikTokはサービス的に次から次へと短尺動画を見せ、没入させるつくりになっているので、次の動画を早くみたいという気持ちが勝り、いちいち誰の曲かチェックしようという気にならない。尺も15秒の投稿が多く、感覚としては、テレビで流れるCMソングに近い。

少々言い訳のようになってしまったが、つまり、自分の音楽ライブラリにある楽曲でありながら、アルバムを聴き直さなければ全く気づかなかったわけである。

サンプリング的な感覚

曲の正体がわかったときのハッとした感覚は、過去にもしばしば体験があった。私は普段ヒップホップやR&Bをメインに音楽を聴いているのだが、ブラックミュージックの世界でよく使われるのが「サンプリング」という手法だ。

昨今のヒップホップブームでかなりメジャーな言葉になった感覚はあるが、改めてウィキペディアをみると以下のようだ。

音楽におけるサンプリング(英: sampling)は、過去の曲や音源の一部を流用し、再構築して新たな楽曲を製作する音楽製作法・表現技法のこと。または楽器音や自然界の音をサンプラーで録音し、楽曲の中に組み入れることである。
―「ウィキペディア(Wikipedia)」より

わかりやすいところでいうと…

故マック・ミラーを客演に迎えたアリアナ・グランデの2013年の楽曲「The Way」。

これはブレンダ・ラッセルの1979年の楽曲「A lttle Bit of Love」をサンプリングしている。

この曲は、"大ネタ"とも言われる代表的なサンプリングネタで、同楽曲を用いた2008年「Still Not a Player」も有名な楽曲である。

冒頭にあげた、「あ〜、この曲だったのか……!」という気づきは、この元ネタに出会ったときの感覚に似ている。耳に馴染みのあるメロディの正体を知ったときの感覚だ。

サンプリング文化において、"何の楽曲のどの部分を切り取るか"はビートメイカーのセンスに委ねられるところだ。必ずしも過去ヒットした有名な曲が採用されるわけではない。曲の中でも、イントロや間奏、数小節のメロディラインのみを切り取りループさせることもある。

TikTokでも同じようなことがかなり頻繁に、そして気軽に行われているように思う。

「Take a Slice」の使われ方

最近TikTokで驚いた楽曲利用がもう一つある。Glass Animalsの「Take a Slice」だ。

Glass Animalsは、エレクトロ調のポップミュージックを得意とするイギリスのバンドである。「Take a Slice」は彼らが2016年に出したアルバム『How to Be a Human Being』に収録されている。

TikTokでは、この「Take a Slice」が運命の出会いカップルの馴れ初めを紹介する動画の楽曲として流行している。(以下の8:33〜参照)

元々の楽曲を聴くとわかるのだが、サビではなく、なんと後半の間奏部分を切り取っている。

この、えっ、ここ!?という意外性がありつつ、たしかに人を惹き付けるメロディがTikTokで拡散されていること、敏腕ビートメイカーの耳を思わせてなんだか気持ちが悪い。(褒めている)

また、馴れ初め動画という独自の文化を生み出しており、しかも動画を作っている当人たちはバンドのことなんて知らなそうな様子がなんとも調子が狂う。

良いものを良いとする文化

このように、TikTokで過去の楽曲が再ブームを起こすことはしばしば耳にする。これは、若者世代(特にZ世代)が、前情報関係なく純粋に良いと思ったものを広めたいと思っているからではないだろうか。彼らにとっては、むしろ少し古い楽曲のほうが新鮮に感じるのかもしれない。

前述のサンプリングの説明では、「過去の曲や音源の一部を流用し、再構築して新たな楽曲を製作する音楽製作法・表現技法のこと。」と定義されていた。TikTokは同様に、過去の楽曲を再評価し、新たな流行を生み出す力を持っているように思う。

ただし、楽曲の使われ方が独特な部分もあるので、もしかしたらアーティストの意図とは異なる方向で流行りが広まってしまうケースもあるかもしれない。

以下は、ラッパーの¥ellow Bucksが、自身の楽曲のTikTokでの流行を受けて、Twitterでつぶやいたコメントである。

このツイートに対しては賛否両論あるようだが、このようにアーティストの思惑とは異なる方向で拡散される可能性もあるため、一概にTikTokでのヒットがプラスに動くとは言えないということは念頭においておきたい。


ただ、毎週大量に新譜がリリースされ、チャート戦争が繰り広げられる中で、純粋な目線で、"新しいもの"にとらわれず作品を評価する動きもまた重要なのではないだろうかと思う。

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