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ありもしない星座のひかり

久しぶりに、眠れない夜を過ごしました。
といっても嘆き悲しむような類のものではなく、やりたいことや楽しみなことがつぎつぎと思い浮かび、わくわくしすぎて眠れないような、いわゆる遠足前の子どものような状態です。

わーこれいいな。絶対やろう。
あ!それもいい!えーーどうしよう、眠れへん困る!
そんなことを考えながらベッドに横になって目を瞑り、かれこれ小一時間ニヤニヤしている訳ですから、なかなかに怪しい光景です。

この閃きたちは一体なんだろう。
なんだか流れ星みたいだな。チカチカ光って頭にどんどん降り注いでくるみたい。

そこまで考えてふと、そういえばしし座流星群が見られるって今日Twitterで見たな、と思い出しました。時刻は午前4時。天体にはあまり詳しくないわたしですが、なんとなく流星群って深夜から早朝にかけて観測するものというイメージがあります。
これはチャンスだ。いまはまさに深夜から早朝にかけての時間。そしてわたしは全く眠くない!と謎のハイテンションで起き上がり、より一層ニヤニヤとしながらベランダに出てしばらく空を眺めました。

11月も後半に差しかかった早朝の空気はだいぶ冷たく、見上げた夜空は真夜中ごろよりは僅かに明るく感じられます。雲が少し出ていましたがちらほら星も見え、わたしは目を凝らして流れ星を探しました。しかし待てど暮らせど星は流れず、不思議に思って調べてみるとどうやらピークは昨夜だったとのことでした。
なんと間の悪い。いつものわたしなら落胆し、もしかするとそのストレスで眠れない夜を過ごす羽目になっていたかもしれません。しかしいまのわたしはスーパーセルフ流れ星タイム。「そうか、これはうっかり」なんてまだニヤニヤしています。どちらにせよ眠れない夜を過ごすことに変わりはないのですが、なぜか得体の知れない幸福感に満たされているいまのわたしは、どこか無敵です。

とはいえ眠れないのは困ったなぁ、みんな寝静まっているというのに…と少し冷静になって目線を下げると、近くにある高速道路をちょうどトラックが数台横切っていくところでした。
それを見たときなぜかハッと、わたしは不思議な感覚におそわれました。有り体に言うのなら「ひとりじゃないんだ」といった感じです。でもなんかちがう。「ひとりだけど、ひとりじゃないんだ」?  いや、そんな一言では足りない気がする。そう感じて、静かに自分のなかを眼差してみました。

わたしがいまこうして早朝にも関わらずキャッキャと思考を巡らせて頭を熱くしていることなんて、誰ひとりとして関心を持っていないんだ。わたしの思いつきなんて本当にちっぽけで、こんなにもばかみたいに心ときめかせて喜んでいるのはわたしくらいなんだ。いま寝ている人たちや、起きてトラックを走らせている人たちや、たったいま向こうの道路を通りすぎたバイクの運転手さんにとっては、心底どうでもいいことなんだ。みんな自分のことで精一杯で、わたしがいまこのベランダに立っていることすら知らないんだ。

この文面だけを見るとなんだか悲壮感が漂います。でもチャカチャカと頭を熱くさせているいまのわたしにとっては、その事実がもつ冷ややかさはなんとも心地がいいものでした。
ひとりひとりが、ただ自分自身を精一杯いきている。少し乱暴に言い換えると、みんな自分本位にいきることに必死で、わたしなんかには目もくれず無関心を決めこんでいる。しかしそれは同時に、わたしがなにを思い、なににときめき、どんな夢を見ようとも、気にも留めず自由にしておいてくれるということと、ひんやりするほどうつくしくイコールでした。
このイコールはすべてにおいていつだって成り立つ、なんて言うつもりはありません。でも今夜眠れずベランダに立ち、ありもしない流れ星をわくわく探した間抜けなわたしにとっては、そのイコールは星座のように輝いて、たしかにわたしの頭のなかで光ったのでした。

思いがけない星座の出現によってすこしは冷やされた頭を、そろそろ夢の世界にあずけようと思います。
遅ればせながら、おやすみなさい。

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