第6回TDセミナー:アクションリサーチ(日本の共創研究)
9月16日に開催した第6回TDセミナーの内容を報告します。今回は、アクションリサーチという手法を使った研究について、基本概念と事例を勉強しました。
アクションリサーチは、研究室や実験室の中ではなく、研究者が社会の現場に赴き、地域の人たちと共に研究をする手法です。使われる状況が似ているため、トランスディシプリナリー手法と混同されやすいコンセプトです。
日本ではトランスディシプリナリー手法よりアクションリサーチを使った研究が多いため、アクションリサーチとはなにか、トランスディシプリナリー手法とはどう違うのか、をテーマに話し合うことにしました。
参考文献
参考文献として選んだのは以下の2冊。
「アクションリサーチ・イン・アクション」では、アクションリサーチの定義や特徴と、日本の防災・減災学における事例の概要が紹介されています。「現場で作る減災学」には、それらの事例がより詳しく描かれています。
この2冊の本の著者である矢守先生は、京都大学防災研究所(防災研)の教授として活躍されています。今回は、知の共創プロジェクト研究員で、防災研で博士号を取得したB.K.さんが中心となり、勉強会を企画しました。
アクションリサーチの定義
これらの本の中で、アクションリサーチは、
共同当事者(研究者と研究対象者)が共になす共同実践
のこと、と定義されています。
ここで、アクションは、「実践」と訳されています。「実践」とは、現実社会におけるさまざまな活動です。つまり、社会における活動の中に研究者が入り、活動を行っている当事者と研究者が共に研究する研究手法のことを、アクションリサーチといいます。
アクションリサーチが目指すもの
研究者は、アクションリサーチにおいて、
第3者として社会実践をよく見ること
を通して、社会に貢献します。
しかし一方で、研究者が社会に入り込んだ時点で、そこは「研究者を含んだ社会」になります。そのため、社会と完全に分離した立場で研究をすすめることは難しくなります。
そこでアクションリサーチでは、研究者の立場や研究のプロセス等を見直しながら、研究の計画と実施を繰り返し、もともとの当事者と研究者が一緒になって、社会をより良くしていくことを目指します。
アクションリサーチのデータ
アクションリサーチを通じて得られるデータは3種類あります。
1. バーズアイ(例:空中撮影写真を使った歩行者の行動の観察)
2. フィードバック(例:研修受講者による自己や他者の評価)
3. コ・プロデュース:(例:避難行動の動画制作、防災ゲーム)
このうち、アクションリサーチの最も典型的なデータは、3つめのタイプ(コ・プロデュース)であるとされ、複数の事例のが紹介されています。
アクションリサーチとトランスディシプリナリー手法の共通点と違い
アクションリサーチとトランスディシプリナリー手法(TD)の関係について、セミナー参加者にPollyでアンケートをとったところ、
・アクションリサーチはTDに含まれる
・アクションリサーチとTDは同じ
・アクションリサーチとTDは違う
という意見に分かれました。
その後の話し合いを通じて、2つの手法はよく似ているけれど、違いもあることが見えてきました。
アクションリサーチとトランスディシプリナリー手法は、
1)現実の社会において研究が行われること
2)研究者と研究者以外の実践者(当事者)が共に研究を行うこと
という共通点があります。
一方で、アクションリサーチでは、
モノやデータを作ること
トランスディシプリナリー手法では、
知識を創ること
を重要視している、というところが大きく異なります。
知の共創プロジェクトでは、アクションリサーチとTDの関係に関して、今後も研究を続けていきたいと思います。