~アイデンティティ・クライシス~21-22プレミアリーグ第5節 バーンリー v. アーセナル

勝てたから良し。

これに尽きる試合だった。内容は開幕して5試合経過したが劇的に改善されることはなく、今日は相手のロングボール攻勢に冷や冷やしながら肩に力を入れてみるような試合であった。終わった後はだいぶほっとして、どっと疲労感を感じた次第である。
総評としては、自分のフィールドで戦えず、ひたすら相手のフィールドに引きずり込まれながらも、何とかセットプレーによる一刺しで勝ったというところだろうか。

なぜこんなにアーセナルの攻守はうまく機能しなかったのであろう。より厳密には、なぜアーセナルは攻守において相手のフィールドに引きずり込まれ続けたのだろうか。

この試合、アーセナルは前節ノリッジ戦の後半に採用した中盤が逆三角形の4-3-3で試合に臨む。ビルドアップ時はティアニーがやや前のスペースに上がり、ウーデゴールが下りてくるため、なんとなく3-2の形でビルドアップをしているように見える。後半に入ると最終ラインはより明確に3バックの形をとるようになった。
対してバーンリーは守備時においてフラットの4-4-2を採用、前半は2トップが、後半からはボランチのどちらかが、必ずトーマスを消すように動いていたことが印象的だった。
バーンリーの守備はファーストラインのところで中央を封鎖し、どちらかのサイドにボールを誘導するようになっている。前半はアーセナルを左サイドに誘導することが多かったのだが、その際、右SHのグズムンズソンが下りてくるウーデゴールを監視する役割を担っている。ある意味完全に逆サイドのティアニーは捨てる形になるのだが、中央を経由されず追い込んだサイドでボールを取り切れるという自信があるのだろう。つまり追い込んだサイドで相手が縦にボールを入れてくる状況を自分たちのストロングポイントが出る状況だと認識しているという理解ができる。

バーンリーは攻撃においても同様の認識をしていると理解できる。
恐らくだが、バーンリーが最終ラインでボールを持つとき、前進することにあまり重きを置いていない。彼らは最終ラインの自分たちに対して相手がプレッシャーを掛けてくることを待っている。なるたけ最終ラインに相手選手を引き付けた後、前線の2トップに向けて大きなボールを(なるべく相手SBとCBの間にある背後のスペースに向けて)蹴り込む。強くて大きい2トップがいるので相手のCBにはっきりとクリアされることが少なく、相手の前線はプレスをかけてきているのでそもそも守備陣形が間延びをしている。2トップが競り勝てればチャンスにつながりやすいし、仮に競り勝てなくても敵陣の深い位置でセカンドボールを拾いやすい。要するに、相手が最終ラインにプレッシャーを掛けかけている状況で前線に向かってロングボールを放り込む状況。これをバーンリーは自分たちのストロングポイントが出る状況であると認識しているのだ。

翻ってアーセナルはどうだろうか。
この試合において、アーセナルのチャンスになりそうな場面、すなわち相手のファーストラインをかいくぐり、剝き出しの最終ラインと相対することができた場面は大別すると3つに分けられるはずである。①右サイドでビルドアップを開始した後、トーマスを経由して左へ。逆サイドで張っていたティアニーにボールが渡るシーン。②ガブリエル、降りてきていたウーデゴール、又はボランチから、相手ボランチの背後に出てきたサカへ縦パス。サカが振り向いてライン間を突進。③同様に右サイドでスミスロウがライン間を突進(こちらはビルドアップからというよりも相手のボールをかっさらって前進することが多かったが)。
もちろん他のパターンでも最終ラインと正対することが無かったわけではないが、ここで言いたいことは、この3選手が特定の場所(ここではそれぞれ①広大なスペースがあるライン際、②③相手ボランチの背後又は横)でボールを受ける状況が、自分たちのストロングポイントが出る状況であるという認識を選手たちが共有できていなかったのではないかということである。個人的にはティアニーはもっと高い位置で意図的に孤立しに行っても良かったのではと思うし、スミスロウは降りてきすぎな気がした。また、チーム全体でも裏に抜けるオーバメヤンをそのまま使ってしまい、その手前にあるスペースに人(この場合ベストはスミスロウ、サカ、ウーデゴールの誰か)とボールを送り込む意識が欠けているのも気になった。
先に挙げた疑問「なぜアーセナルは相手のフィールドに引きずり込まれ続けたのか」に対する個人的な答えは「そもそもアーセナルに自分の得意なフィールドがどこかという共通の認識がなかった」である。

本来、ビルドアップというのはこの自分たちのストロングポイントが出る状況を作るために行われるものである。相手のストロングポイントを出させず、こちらのストロングポイントを出す。そのための手段として配置が重要なわけであって、決定順序としては「長所・武器は何か→相手の長所・武器は何か→じゃあ有利な状況を作るためにこの配置にしよう」が理想のはずだ。
今日のアーセナルはその最初の段階を認識又は決定できているのか、少なくとも外から見ている分には良くわからなかった。もし仮に自分たちでも自分たちの有利な状況を理解できていないのだとしたら、それは現在のアーセナルの「アーセナルらしさ」を選手たちで共有できていないということにならないだろうか。

夏のマーケットが終わり、シーズン前半戦のメンバーは確定したことになる。彼らとアルテタとの中で現在のアーセナルの「アーセナルらしさ」を見つけ、共有し、相手にぶつける。これがシーズン前半の大きな課題になっているように思われる。

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