痛みに打ち勝て!〜手術後の痛みがひどくて、日常生活に支障が出ている人に。勝負の3日目とは〜
大腿骨頸部骨折術後の疼痛が全然取れない。
僕が新人の頃に初めて持った患者さんは大腿骨頸部骨折術後の方でした。
そして大腿骨頸部骨折術後の疼痛が全然取れない。とすごく悩みました。
そこで今回はあなたが痛みに対してどのようにしていけば良いのか、疼痛の基礎から整形外科的損傷、手術をした人がどの様な過程を経て疼痛が出現してしまうのか、どんなリハビリを提供していけたら良いのかについて見ていきましょう。
ちなみにあなたが疼痛の理解って難しいなと感じてしまう本当の理由をご存知ですか?
それでは質問です。あなたは疼痛に関して大学や専門学校で勉強した記憶はありますか?
多分あまりないのではないかと思います。
その理由は単純に勉強してこなかったからっていうのが原因になります。
あなたが悪いという話ではありません。と言うのも実はカリキュラムにほとんど入っていなかったのです。(5時間以下)
そのため、痛みは難しいのではなく知らないのです。
そこで今回はあなたが痛みに対してどのようにしていけば良いのか、疼痛の基礎からどんな治療をを提供していけたら良いのかまで理解を深めていけるようにと思います。
疼痛とは
まず痛みの定義について見ていきましょう。ここがブレてしまうとなんの話をしているのかわからなくなりますのでここは理解しておきましょう。
痛みとは実際に何らかの組織損傷が起こった時、あるいは組織損傷が起こりそうな時、あるいはそのような損傷の際に表現されるような、不快な感覚体験および情動体験。 疼痛国際学会(IASP )1981
不快な感覚体験と情動体験なんです。
この一文からわかることは痛みとはただの感覚という部分ではなく、情動、そして認知という側面も含んでいるということになります。
要するに疼痛を見ていく上で必要な要素は
・感覚的側面;痛みの部位、強度、持続性など痛みを識別する身体的な痛み。
・情動的側面;痛みによって引き起こされる不安、怒り、恐怖などの不快感。痛みによって行動の選択に影響を与えるもの。
・認知的側面;過去に経験した痛みの記憶、注意、予測などに関連。痛みを過度に予測して痛みを増大させることもある。
の理解が必要となってきます。
今回は感覚についての面を色濃くしています。
ペインリハビリテーション入門 沖田実 三輪書店 より引用改変
痛みが出てしまう伝導経路
ここからはまず痛みの伝達経路についてみていきます。
痛みをどのようにして私たちが感じているのか伝導路を順番にイメージしていきましょう。
手を火傷する、足をぶつけると、、、→手・足に存在する痛みを感知する組織が反応→神経を伝って情報を脊髄に送る→脊髄の後角という場所を経由した後、脳に情報を送る→脳に情報が届くと痛い。
簡単に言うとこんな感じです。
なのでこの経路のどこかでやられると痛みが生じてしまうのです。
では詳しくみていきましょう。
痛みの経路は電車の乗り換えと一緒です。神経を移り変わりながら脳を目指して進んでいきます。
イメージしながら理解していきましょう。
ペインリハビリテーション入門 沖田実 三輪書店 より引用
手が火傷したり、足をぶつけたりするとまず、手足がダメージを受けます。体に害を与えるような刺激を侵害刺激と言います。
手足の皮膚や筋肉、骨・関節にダメージを与えられると手足に存在する侵害受容器(自由神経終末)が反応し、その情報が脊髄に送られていきます。
手や足(末梢組織)に痛みが生じると加わった侵害(痛み)刺激は、脊髄に情報を運ぶために一次侵害受容ニューロンの末端で情報を感知して、そこから脊髄後角に向かってに情報を送っていきます。
脊髄後角では、一次侵害受容ニューロンと二次侵害受容ニューロンで乗り換えが行われ脳(視床)に情報を送ります。
この経路は脊髄後角から視床までを行くので脊髄視床路と言います。
さらに、視床で二次侵害受容ニューロンとシナプス(神経伝達)を介して三次侵害受容ニューロンに伝達され、大脳皮質の体性感覚野に伝導されるとそこで初めて、痛みとして知覚されます。
乗り換えを電車に見立てて復習してみましょう。
手・足の末梢組織(駅)→一次侵害受容ニューロン(線路)→脊髄後角(当駅止まり・乗り換え必要)→二次侵害受容ニューロン→そして脳(視床)→三次侵害受容ニューロン(線路;再び乗り換え)→脳(体性感覚;目的地)となります。
なので基本的に違う駅(部位)に移動する時には線路である侵害受容ニューロンが一次だったり二次だったりと名前が変わるだけなんです。
覚え方の参考にしてみてください。
二次侵害受容ニューロンでは線路が分かれて、感覚的側面、情動的側面に行く経路がありますが、今回は省きまた説明できたらと思います。
何度も乗り替わる侵害受容ニューロンについて
今度は侵害受容ニューロンについてみていきましょう。ここでは感覚の入り方は神経によって違いがあるよってことについてみていきます。
電車で例えるなら、普通電車もあれば、特急もある。ちょっと線路が違うと感じ方や伝わる速度が違うよって話になります。
一次侵害受容ニューロンにはAδ線維とc線維の2種類があります。
Aδ線維の軸索は、シュワン細胞が何重にも取り巻いた髄鞘(ミエリン)を持っている有髄神経になります。その直径は5μm以下になります。
軸索とは線路の主要部分であり、痛みの電気刺激が通る場所になります。
そして髄鞘とは活動電位を高速化させてくれる、電線の外側のチューブのようなものになります。これがあると有髄線維、ないと無髄線維という名前になります。
電気が剥き出しになっている状態より収めてくれていた方が早そうなイメージです。
カンデル神経科学 エリック R.カンデル より引用改変
一つの幅は1〜2mmで髄鞘と髄鞘の間にはランビエ絞輪といい、約1μmの間隙が存在します。
ランビエ絞輪は一定の間隔で並ぶことで活動電位が近道できるようにしています。
例えば、一定の間隔で跳び箱があるとします。何個も跳び箱を飛ぶときに一つずつ正攻法に飛んでいくよりも、上に登って次の場所にジャンプする。その方が速く移動できる。そんなイメージです。
このようにランビエ絞輪からランビエ絞輪へジャンプする現象を跳躍伝導と言います。
このようにAδ線維は活動電位の跳躍伝導が生じ、伝導速度も5〜15m/sと速く活動電位を脊髄後角へ伝えることができます。
伝導速度が速いAδ線維には、侵害刺激情報を瞬時に脊髄後角に伝える役割があり、組織損傷直後に見られる鋭い痛みであり、一次痛に関与しています。
それに比べてC線維は無髄神経であり、髄鞘やランビエ絞輪は持っていません。その直径は1.5μm以下で、伝導速度も0.2〜2m/secと遅いです。
このように伝導速度が遅いc線維には侵害刺激除法を数秒以上かけて脊髄後角へ伝える役割があり、組織損傷後に少し遅れて見られる鈍い痛み、二次痛として関与しています。
一次侵害受容ニューロンにはAδ線維とc線維の2種類。Aδ線維は有髄線維で活動電位の伝達が早く、組織損傷直後に見られる鋭い痛みである一次痛に関与。C線維は無髄線維で活動電位の伝達が遅い。組織損傷後に少し遅れて見られる鈍い痛み、二次痛として関与。
Aδ線維とC線維の末梢側(手や足)の終末部は特別な構造を持たず、軸索がむき出しの状態となっています。
この部位の軸索は自由な動きでいくつも枝分かれしており、この姿形から神経の終末部を自由神経終末と呼んでいます。
手・足の組織で痛みを感じている神経の名称です。
この自由神経終末は侵害受容器として機能していますが、侵害受容器には高域値機械受容器とポリモーダル受容器の2種類があると言われています。
高閾値機械受容器は侵害性の機械的刺激によって反応しますが、弱い機械的刺激では、反応しない特徴があります。
高閾値機械的受容器には侵害受容機械刺激のみに応答する受容器が存在していますが、分子構造は理解されていないようです。
ポリモーダル受容器は機械的刺激、熱刺激、化学的刺激のいずれにも反応し、さらに非侵害刺激から侵害刺激に至るまで幅の広い刺激応答性を示し、刺激強度に伴って興奮性を高める特徴があります。
ペインリハビリテーション 入門 沖田実ら から引用
ポリモーダル受容器はいろんな刺激に対して反応することが可能な特徴がある受容器。機械的刺激(トンカチで殴る、蹴る)、熱刺激(43℃以上の熱、トウガラシのカプサイシン)、化学的刺激(薬物によって組織変化が起こる)に応答する受容体は数多く存在する。
化学物質に関してはまだまだ種類があるみたいです。
術後の炎症でなぜ痛みが出るのか
いよいよ術後に発生する疼痛に関してみていきます。
まずは急性期の整形疾患で起こりうる疼痛、炎症性疼痛に関して見ていきましょう。
炎症とは細菌感染、外傷、火傷などの組織障害が起こると、種々の活性物質が局所に放出され、2次的な反応として起こる生体反応。
その生体反応に痛みがあり、赤く腫れ、熱っぽい状態であり腫れが出ると言う感じになります。
これら発熱、発赤、疼痛、腫脹は、炎症の 4 徴候と呼ばれ、生体に何らかの刺激を起こす物質が作用したときに生体が示す生体防御反応のひとつになります。
生体防御反応が起きてくれるから体の異変に気付け、いち早くを行動を起こし、対策を取ることができます。
では、この時に体の中ではどのようなことが起きて発熱、発赤、疼痛、腫脹が起こるのかについて、考えていきましょう。
まずあなたに質問です。もし、テレビがつかなくなった時どうします?
そう、修復しようとしますよね。テレビの電源が抜けていない?リモコンの方が潰れている?などあらゆるを手を使ってテレビがつくようにしますよね。
炎症も一緒です。組織が破壊されたら修復しようとするのです。
炎症とは、損傷した組織を治癒していく過程の初期段階にあたるということです。
ペインリハビリテーション入門 沖田実 三輪書店 より引用改変
損傷したら組織からはK(カリウム)イオン水素イオンやATP(アデノシン三リン酸) 血液(赤血球など)なんかも出ていきます。
水道管が破裂したときのように組織が損傷したことによって細胞の外に出ていこうとしてしまいますが、ずっとそれでは困ります。
そのため、損傷した部位を修復するために血液を固め(血液凝固)、血液が外に漏れ出さないように、血小板によってかさぶたを(止血血栓)形成してくれます。
その過程で細胞外に出てしまったK(カリウム)イオン水素イオンやATP(アデノシン三リン酸)、血小板からセロトニン、肥満細胞からヒスタミンが放出されて、こいつらが痛みを感じてしまう侵害受容器(特にポリモーダル受容器)を刺激してしまい痛みが生じてしまいます。
さらに血液凝固を行う際に出てきてしまう、ブラジキニンっていう物質が生産され、これがまた侵害受容器を刺激してしまうのです。
今あげた物質はすべて発痛物質になります。こんなに多いのって感じですね。
細胞膜からは、ロイコトリエンやプロスタグランジンが作られてます。
ロイコトリエンやプロスタグランジンがの厄介な所はブラジキニン(発痛物質)の痛みを増強する作用と血管を拡張する作用があります。
こいつらは発痛物質に痛みの総決算かと言わんばかりに追い討ちをかけてきます。
痛みを増強させつつ、血管を拡張するため、先ほど挙げた発痛物質のK(カリウム)イオン水素イオンやATP(アデノシン三リン酸)なんかもどんどん流れてきちゃうわけです。
そりゃ痛いよねーってなりますよね。
この時に血管は拡張すると血流量が多くなって、赤い色素を持つヘモグロビンが増えるので、皮膚が赤く見えちゃいます。(発赤)
さらに生体防衛のために血管の透過性が亢進します。要するに病原体を殺すための物質を通しやすくしてくれるようにしてくれるということです。
そしてどんな物質が通ってくるのかというと、血中から白血球やマクロファ ージなどが放出されます。
これは、損傷された組織の残骸など生体にとっていらなくなった物を貪食する作用もっていて、これが血管の外へ放出されると外からは腫れて見えてしまうのです。(腫脹)
熱感は血管が拡張し血流が増えることで出現します。
熱感が起こると組織の温度も上昇するので疼痛の発生を感知する受容器(ポリモーダル受容器)の活動が多くなります。(目次;痛みの神経生理学;侵害受容ニューロンについてを参照)
また産生される炎症性物質の刺激もあるのでポリモーダル受容器の興奮性が出てくるのでさらに痛みやすいって感じになります。
今説明した損傷した組織や炎症部位に浸潤した白血球や肥満細胞、マクロファージなどが放出される生理活性物質をまとめて炎症メディエーターと言います。
興味があればまたググってみてください。
このように炎症した時に損傷や発痛物質が痛み刺激となってポリモーダル受容器線維を中心として痛み神経を興奮させるんです。
しかしそれだけではありませんでした。衝撃ですねえ。
神経に伝えているもの(自由神経終末)に刺激が入ると活動電位が発生して、脊髄後角へ伝導されるが、一部の活動電位は自由神経終末の分岐点で折り返し、末梢方向へ戻ってきます。
この現象を軸索反射と言います。
ペインリハビリテーション入門 沖田実 三輪書店 より引用改変
軸索反射が生じると、自由神経終末の末端から複数の神経伝達物質(サブスタンスP、カルシトニン遺伝子関連ペプチドなど)が出ていきます。
こいつらは軸索反射によって再び、痛みを感知するポリモーダル受容器に刺激するために戻ってきて痛みを生じさせます。
サブスタンスPやカルシトニン遺伝子関連ペプチドなどの物質も血管を拡張させたり、血管の透過性(発痛物質など通り道の広さ)を亢進(広げる)させるから血管から白血球などが放出されやすくなって局所性の炎症反応が引き起こされちゃう訳です。
痛みは本来は生体の危険信号であるため、不可欠な要素ですが、炎症の急性期に損傷している組織にガツガツリハビリしたり、物療の温熱療法を行うとどうなるか?
運動時には交感神経が優位なります。交感神経は戦うぞ、動くぞというときに興奮し、活動が活発になる自律神経系の一つです。
動くぞって時には交感神経が優位になり、たくさん血を筋肉に送ろうとして、血管が拡張します。
血管が拡張すると損傷している組織にも血流が送るために発痛物質がワイワイパーティー状態になります。
温熱療法も同じですね。あったかくなると血管が拡張するので同じく発痛物質がグイグイのワイワイになります。
なので炎症期の温熱療法は禁忌となっています。炎症を助長して疼痛を強めてしますからね。
寒冷療法は血管を収縮させるため、急性期の時期には適応となります。そのため、炎症すぐには氷で冷やしたりなんかはいいわけです。
物療も時期によって適応が変化しますので疼痛を悪化させないように気をつけましょう。
では動かさない方が良いのかというと、そうではないのです。
次は運動、をしない状態、不動について考えていきましょう。不動になると実は、、、なことが起きてしまいます。
動かないことは悪?動くことが悪?
痛みがあるから動きたくない。
初めは骨折や靭帯損傷などの外傷をギブス固定などで動かさないようにしますが、怖いから動かないって人もたくさんいます。
では動かなくなるとどのようになるでしょうか?痛みはなくなるのでしょうか?
いいえ、ご想像の通りです。むしろ痛みが増強します。
このような不動による痛みは不動性疼痛と呼ばれています。
ただ、不動は本当に多いです。
難治性の慢性疼痛の複合性局所疼痛症候群と診断された134人に患者を対象とした調査では、47%が外傷を患った後の治療目的のためのギブスやスプリント固定による意識的に不動を作られていました。(Allen G, 他 et al;1999)
では不動が意図的に作られたことによってどのような弊害が起こってくるのかについての研究を見ていくと、、、
足部周辺骨折により2〜9週間、非荷重とスプリント固定のような不活動処置を受けた28名の患者を対象にした調査では57.1%の患者は治療後に患部に機械的アロディニアを認めました。
機械的アロディニアとは通常では痛みを起こさないような軽微で非侵害性の刺激に対して痛みを感じること。
要は触られるなどの触覚刺激ですら痛みを感じてしまう状態になります。
この現象は本当に不思議で、僕たちからみたらすごく大げさに見えますが、やられている本人は本当に痛がっているのです。本当に不思議な現象です。
また腰痛発症後の安静が全身の不動のどのように影響与えるかについて調査した報告があります。
その調査報告では3日以内の安静であれば、痛みを始めた機能障害の改善は良好とのこと。
逆に4日以上の安静を強いられた群では1年以上も機能障害が残存したと報告されています。
3日と4日では大きな差になりうる可能性があります。
非特異的(原因不明)急性腰背部痛患者のシステマティックレビューでも発症した初期に安静を強いられた群は通常の身体活動を維持していた群に比べて痛みや運動機能の改善が不良であったとのこと。(Dahm KT 他 et al:2008)
今までは痛いときは安静と言われていましたが、そんな時代でもないことがわかりますね。
健常人23名に前腕を4週間不動にする研究(Butler SH:2001)がありました。
それによると、52%は冷痛覚の閾値が低下、36%は熱痛覚閾値が低下しています。
疼痛の閾値が低くなってしまうことがわかっており、より痛みが感じやすいということになります。
このように末梢の組織に変化を与えてしまうのが不動ということです。
運動器の外傷では特に不動になることが多いため、いかに早く動かして疼痛の慢性化させないかが勝負になります。
急性痛に対してのリハビリ
急性痛に対するリハビリテーションの目的は損傷部位の治癒を進めながらかつ、痛みを長引かせない、慢性疼痛を予防することがとても重要となります。
そのために上記した物理療法なんかも適用していき、損傷部位の治癒を進めることも重要になります。
また過度な安静に伴う不活動を助長してしまう要素でしたね。
不動は痛みの増強や新たな痛みとしての不活動性疼痛の発生させてしまうのはもちろんですが、関節可動域制限や筋力低下などの運動機能障害も引き起こしてします。
そのため、急性痛のリハビリでは、安静を最小限にとどめ可能な範囲で、可能な範囲での身体活動性を継続させることが重要になります。
※中枢感作についてはまたの機会に伝えれたらと思います。
そーゆう意味ではリハビリでの運動療法の提供や自主トレ指導の意義はとても大きいです。
しかし、実際問題、骨折などの治療としてギブス固定や創外固定が施されている場合は患部の運動が禁忌になることも多く、必然的に患部周辺の末梢組織は不活動に曝されることもあります。
そして、これを期に末梢組織からの刺激が減弱・消失すると慢性疼痛に発展することがあります。
その予防対策として、末梢組織への感覚刺激入力が必要であり、これを狙った各種の物理療法の適用も考慮していく必要があります。
各国の診療ガイドラインをもとに痛みに対するリハビリテーションのオーバービューでは、急性痛のマネジメントに対しての物理療法は損傷部位の治癒促進と早期の疼痛管理のために必要に応じて適用すべき方法としています。
ガイドラインでの適用は1週〜1ヶ月程度の短時間に止めるべきであると書かれています。
この理由について考えていきましょう。
物理療法の適応が短い理由は、、、
受動的(受け身で不動)な治療であり、慢性疼痛に対する効果は期待できないためになります。急性痛を長引かせないためにはとても重要なことではあるのですが、それ以降の慢性痛では効果的ではないのです。(この理由は次の機会に)
そして運動療法に関しては、歩行などの軽度な運動から始め、徐々に負荷量をあげていくことが推奨されており、運動促進の準備あるいはコンディショニングのために必要に応じて筋リラクセーションなどの適用も考慮すべきとされています。
ただ、早期から活動的な運動や高負荷の運動を実施すると逆に痛みの増強や新たな痛みの発生を招く可能性もあるため、注意しながら行う必要があります。
やはり運動は維持した方が良さそうですね。
極力、仕事などを含めて通常の活動を維持し、安静を回避することは特に重要な点であり、医学管理上安静が必要な場合でも、その期間は3日以内に留めるべきとされています。
これは先ほど上がっていた不動の研究の話からも言えますね。
そんな一方で、痛みに対するリハビリ戦略として多用されてきた印象のある徒手療法は、ガイドラインでは、急性痛発生後1週間〜1ヶ月以内の短期間に止めるべきであり、その適用自体もオプションとして考えるべきとされているようです。
私は末梢組織(器質的な)の痛みが改善しない理由に筋肉の要素が含まれてるケースが多いのであっても良いのでは?と思っていますが、、、、
また、装具療法に関しても必要に応じて、短期間の適用にとどめるべきとされています。
そして冒頭部分でも伝えましたが、痛みには感覚、情動、認知といった多面的側面があります。
急性痛は感覚的側面が色濃い痛みではありますが、この時期に不安や抑鬱といった情動的側面や破局的思考といった認知的側面に問題を抱えた患者は、痛みの訴えが強いだけではなく、慢性疼痛に発展しやすいと言われています。
患者に安心感を与えることは、不安などの情動的側面にも効果があります。そして面白いのが痛みそのものに対しても効果があると言われています。
ハーバード大学のKaptchuk TJ1・他の研究(2008)では、過敏性腸症候群の262人の男女を3グループに分けて親身になることが痛みの軽減になることについて見てくれています。分けられた群は、、、
①被験者の悩みを親身になって相談してくれる施術者から、偽の鍼治療を受ける
②ほとんど喋らない人から施術者から偽の鍼治療を受ける
③何にもしない
これを6週間おこなった結果、大きく違いが出現しました。
①の被験者の悩みを親身になって相談してくれる施術者から偽の針治療を受けた群は他の②③グループに比べて、痛みのレベルとQOLが2倍も改善したそうです。
面白いですね。
今回は過敏性腸症候群の人を対象にしてますが、それにも理由があります。
過敏性腸症候群は、お腹の痛みや調子がわるく、それと関連して便秘や下痢などのお通じの異常(排便回数や便の形の異常)が数ヵ月以上続く状態のときに最も考えられる病気で大腸に腫瘍や炎症などの病気がないことが前提になる病気になります。(10%くらしかおらんらしい)
疾患による客観的な測定値を除外して、自覚症状のみによって定義される障害である為、この疾患を選んだみたいです。
Drから原因不明と言われているような慢性疼痛の症状と似ているので、急性期から使えるかについてはわからないところですが、試してみる価値は高いと思います。
患部に対する運動療法
実際に人工膝関節置換術後の患者がを対象にした研究についてみていきます。
この研究ではCPM装置(関節運動を他動的に行ってくれる機械)を使用したランダム化比較試験になります。
その結果、CPM装置を用いた他動関節運動により痛みの軽減効果と筋力の維持が可能だったみたいです。(Lessen AF 他 et al:2003)
しかも不動期間が3日以上の2週間で効果を示しております。
ここでのポイントはあくまでも他関節運動になります。下肢を揉み揉みしていても効果はないので注意してください。
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