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昨日まで(肩は)挙がっていたんです

心苦しい話。古い記憶。
病気とは、じわじわ悪くなるものだけにあらず。
突然訪れる。突然、出来ていたものが出来なくなる。

90代 女性。ケアハウス入所生活。

上品な笑顔に上品な語り口調。
しゃなりしゃなりと歩かれる女性。

どうやら先日転倒されたとのこと。

患者様「昨日まで手は挙がっていたんですけどね。」

患者様は自分の左手で右手を持ち、バンザイをして見せてくださる。
ところが、左手を離すと右手はストンッと落下。

右手だけの力で手を挙げようとすると肘が曲がり、いかり肩のように肩が上に持ちあがる。しかし、二の腕は全く上に挙がらない。

肩を挙げる筋肉、三角筋(という筋肉があります)が働いていない。
一生懸命に力を込められるが、動いてほしい主動作筋はピクリとも動かない。

医師からは、
「心臓に持病があるため手術は出来ない」と湿布のみを処方。
「あとはリハビリを頑張ってください」と指示を受けたとのこと。

色々試した。
ですが、根本となる三角筋が全く反応しない。
関節の可動域は確保できていた。ところが、筋肉がピクリとも動かない。

それでも、いつもにこやかな女性。
だけど、ふと見せる表情は当然暗い。
杖で歩いて来られていた方は、いつの間にか歩行器で歩いて来られるようになった。

患者様「ついこの間まで動いていたのにね・・・。」
心なしか声が小さい。

医師の指示のもと、動作指導を行い生活方法を見直していたが、患者様の関心事は当然「右腕(肩)が挙がるようになってほしい」、これに尽きる。

手術できなかったのは、心臓が弱かったから。
今の心臓では手術に耐えることは難しいだろう、その危険性を冒すくらいなら肩は挙がらなくともこのまま生活していく方がいいだろう、というのが医師の見解でした。

人の身体は簡単に悪くなる。簡単に今の運動が出来なくなる。
昨日と今日の隔たりは24時間。でも24時間前の体調はこの後何度24時間を費やしても二度と戻ってこない。また、年を重ねることは医療処置(手術など)を受けることができる期日を知らぬ間に短くするようです。


挙がらない右肩に患者様はどんな思いで湿布を貼られていたのであろうか。


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