温かい地獄4丁目14棟812号室
とんでもねぇ優しさは最早ぬるま湯の様な温泉に一生浸かって最終的に溺死体なってしまうのではという危険性を孕んでいた。
ほら、なんだメンヘラの最大大手の太宰治先輩ですら「弱虫は、幸福をさえおそれるものです。綿で怪我をするんです。幸福に傷つけられる事もあるんです。」そう仰ってるのですから、優しさに殺される時は実在する。のである。
私にも心当たりがあります。メンヘラ大先輩の太宰治から見りゃ鼻で笑われるような不幸話とベタな恋愛話なんですがね?まぁ太宰治もちょっと川端康成から一旦離れて小娘の哀れでベタな話を酷評してくれんかね。
ひょっこりはん激似の彼
高校生時代、保健室の私に急にちょっかいをかけては「元気?」「今日は朝からおるやん」など気にかけてくれる優しい男子生徒ひょっこりはんがいた。当時ひょっこりはんは学級委員長で明らかに保健室登校をしている人間よりも交流を深めるべき友人が居たはずだ。
そんなひょっこりはんの会話を盗み聞きすると意外と漫才で言うようなツッコミポジションでイジったり愛のある大阪ならではの優しいコミュニケーションに強い人だった。
優しくすると泣いちゃうでしょ
ひょっこりはんからは保健室登校の辛気臭い顔をした私を最初の方は傷付けないようにと丁寧に接してもらっているなという自覚はあった。
だかそれも3ヶ月もしないうちに徐々に扱いが雑になりいじられるようになる。いじめではなく本当に上手いお笑い芸人がひな壇の芸人をいじるような、それをきっかけに周りから愛されやすくされるような優しいいじりでもあった。やっぱりお前はお笑い芸人に向いてるよ。
正直な話、優しくされ慣れていなかった為どういうリアクションが正しいのかすら分からなかった。だから雑にいじられるくらいが丁度良かったのだ。
青春の殆どを保健室のベッドで過ごしていたメンヘラにとっていくら見た目がひょっこりはん似であっても彼に惚れてしまうのは回避しようの無いことだったとアラサーになった今でも思っている、反省は全くしていない。
少しだけでいいから他の女の子と同じように優しくして欲しくなってしまった。ちょっと優しくされて夢を見たかった。
だからひょっこりはんに言ったのだ「お前って皆には優しいけど、私には優しくないよね」。するとひょっこりはんは「だって優しくすると泣いちゃうでしょ」と。
だからってその優しさは狡すぎやしないか。
メンヘラの大先輩太宰治の話に戻るが、確かにじゃあ他の子と同じように優しくされたら幸福に恐れ勝手に傷付き殺されていただろう。しかし雑に扱うのも優しくしたら泣いてしまう私の事を考えてされていた優しさだと知ってしまった今、前も後ろも地獄。
ほんのり優しい彼と同じくらいのほんのり温かい地獄が広がっているだけだったのだ。
結論から言うとほんのり温かい地獄を6年間彷徨う事になる。いや結局ここに綴っている時点で今も地獄から抜け出せていないのだろう。
しかしアラサーになった今でも人生最高に優しくしてもらった経験は未だにお前の優しくすると泣いちゃうからといって雑に扱われた、あの中途半端に短くも長くもない期間だったと断言できる。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?