受け入れてもらったという笑顔が明るければ明るいほどもやもやが募ることだってある
5月某日
お昼ごはんを食べながら見ていたテレビで、神奈川県真鶴へ移住した(どこからの移住だったかは忘れました)若夫婦の話をやっていた。
「いいいじゅー」とかいうNHKの番組です。
移住してはじめたのは本屋さん。
カフェも併設して、お客さんとの交流も図れる、最近流行りのこじんまりとした本屋です。
セレクトは奥さんのこだわりで、LGBTやジェンダー、社会課題を扱ったものなどが多いみたいです。
週末には、こうしたこだわりのラインナップに関心のあるお客さんが、真鶴以外からも訪れてきます。
近所の人もぶらっと立ち寄ったりもしますが、その方々も積極的にこうしたセレクトの本を買う、って言うわけでもないようです。
ひとりの高齢女性が語っていました。
「なかなかこの地域の人たちはこの趣味には興味を持てない。読みたいという本がない」
(一回見ただけなので正確ではありませんが、こんなようなことを)
察するに、意識高い系の本はこの地域には合わないよ、って暗に言っています。
で、店主は地域の人たちにリサーチをはじめます。
ママ友への聞き取りです。
そこででてきた意見(要望)は、
海が近いから磯に関するもの。
魚が豊富だから魚のさばき方とかわかるもの。
石とか鉱物の本。
などなどかなり実用的です。奥さんのこだわりとはかなりかけ離れています。陽気に話すママ友らに対して笑顔で陽気にメモを取りながら対していますが、おや?心のなかでは、あれあれあれ、じゃないのかな。
でも聞き取りをお願いしたし、移住してきた身としては要望を無視するわけにはいきません。夫婦は関連する内容の本を数十冊と仕入れ、目立つ位置に並べ、新たな棚作りを始めるのです。
番組はこのあと、本屋を訪れる地域の人たちの笑顔をとらえます。
魚のさばき方の本を開いて、くわしーとかわかりやすいーとか。
石(鉱物)の本を覗くこむ子どもに、「どう?欲しい?」
番組は地域の声を聞き、ニーズに応えた品揃えをし、地域の笑顔を生まれた新しい本屋の姿を描き出し終わります。
やった!移住してよかった!
笑顔が見られてよかった!
と、番組的にはとても和やかな印象で終わるのだけど、見ている方としてはなんだかもやもやが残ります。
夫婦の描いたこの小さな本屋の姿はこれだったの?
地域に受け入れられ、多くの笑顔は生まれたけれど、それですべてOKなの?
最近こういうこだわりの本屋さんは増えている。
それぞれ店主独自の感性でセレクトした本が並び、そのオーナーのこだわりを愛する人がわざわざ足を運ぶ。
目指していたのはそこだったはずなのに、両立の難しさを実感した夫婦の戸惑いの声が、なんとなく聞こえてきます。
夫婦の本音を描く、もうひとつの物語を見てみたい気がします。
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