生成AIで仮歌シンガーの仕事がなくなるかもしれないけど♩にしにしにしにし♩の歌はやっぱにんげんでなきゃって話
枕元にスマホを置き、タイマーをセットし、ポッドキャストかYou Tubeの音声配信を流しながら目をつむる。
そうしていつのまにか眠ってしまうのが心地よい。翌朝配信の最初の10分ぐらいしか覚えていないからおそらくそのぐらいで眠りに落ちてしまったんでしょうね。
ここ数日のメニューは、ダースレイダー✕塚越健司による「AIの現在」というYou Tube配信だ。全部で2時間以上あるから少しずつ聴いている。
ふむふむなるほど。
AI による声、ボカロとは異なるボーカルAIも、かなり自然な、人間と区別できない声が生成できているようだ。
ダースレイダー氏によると、これにより、いわゆる仮歌シンガーの仕事がなくなるんしゃないかと。
仮歌シンガー。
アイドルやアニソンシンガーのように自分で曲を作らない歌手が、参考にするための仮歌を歌うシンガーだ。
譜面通りに歌う技術があり、でもって特に個性はいらない(個性を必要としない)のであるならば確かにAIボイスで十分かもしれない。
正確さが求められるスタジオミュージシャンもそうだ。
という配信に、ふむふむと半分眠りながら聴いていた時、突然
♩たんたんたーん♪ たんたんたーん♩
という音楽、いや歌声がカットインしてきた。
なんだ?
どうやらYouTube広告の来訪だ。いきなりのノックの音が、たんたんたーん、と来た。泰平の眠りを覚ますたんたんたーん。
眠るときに聞くYou Tubeはこうしていきなり広告が挿入されるから困る。
画面を開き、スキップを押そうとすると目が覚めてしまうからいつもは聞き流すんだけど、
たんたんたーん たんたんたーん
ときて、
にしにしにしにしにしにしにしにし
と続く掃射ボイスにすっかり覚醒させられてしまった。
枕元のスマホを手に取りひっくり返し画面を見る。
30秒コマーシャルのちょうど終わりの、クレジットタイトルが目に焼き付く。
黄金に輝くそれは、「にしたんクリニック」とある。
翌朝いったいどんなCMなんだ、と検索してしまった。
船越英一郎、黒木瞳、3時のヒロインが出ている。
火曜サスペンス劇場風の構成で、なんのメッセージもない、もう徹底したネーミング告知で、ただ♪たんたんたんたーん と にしにしにしにしにしにし♪と歌っているだけ。
ほれ、前は郷ひろみがマリオネットと踊るやつだったっけ。
クリニックはいま自分が必要としているモノではないけれど、偶然の出会い以外でもこうして自発的に見よう、という気にさせてしまうなんて、いや参った、やられました。
思わず3回繰り返して見てしまった。
う〜ん、でも、
「にしにしにしにしにしにしにし」の部分が苦しそう。懸命に歌ってる。
「に」と「し」を早口で連続させるのはむずかしいのか。
ちょっと試してみた。
にしにしにしにしにしぃしいしぃしいしいしぃしっしし
うわぁ。「に」が消えて「し」だけになってしまう。「し」もいつのまにか「い」に変わっていく。
たしかにむずかしい。
レコーディング現場で、うわぁ〜言えねえ!ってNG を連発したであろう光景が浮かんできます。
それでも「にしたんクリニック」の歌い手たちはがんばって
♪にしにしにしにしにしにしにし♪
と見事に歌い上げている。お見事。
でも、これ、さっきの話じゃないけど、AIボーカルだったら完璧にやり遂げちゃうんじゃないの。
と、でも、ちがうんだろうな。そんなんじゃおもしろくないんだろうな。
苦しそうで、ひょっとして間違えるんじゃないの、という不安定感が笑いを生み、印象を残すんだろうな。
人間にはむずかしいことも、AIだったらできてしまう。
息継ぎなしの歌だって歌えちゃう。
とんでもない音域の歌だって平気だ。
めっちゃ早口のラップだってお任せください。
AIなら何でも自在だ。
そういうAIならではの表現がこれからどんどんと現れてくるだろうけれど、人間の、人間による、人間ならではの、不器用さぎこちなさ不安定さが人を惹きつける魅力となって、そのぶん逆に輝いてくる。と思いたい。
生成系AIが盛んな2023年に世に出た「にしたんクリニック」の歌声は、AIへの挑戦として拍手を送ります。
(人間による歌じゃなくボーカルAIだったらがっかりですよ、ちがうよね?)
その挑戦を、最初っからAI に任せて挑戦じゃなくしてしまうか、
それとも、
AI なんかに負けるもんか、絶対に人間のほうが優れてる(おもしろい)と信じ、時間をかけ何度もトライし「人間味」を与えるか。
その「正しい選択」が迫られている。
がんばれ人間!
ってなんだか変だけど、AIの登場は人間ってなに?を改めて考えてしまう。そんな感じです。