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私の「美」(18) 「都会のなかの果実」

 スーパーや果物屋さんに並ぶ果物はもちろん美味しそうで好きですが、通りすがりに発見した果実ほど心惹かれるものはありません。
 我が家の借景には大きな柿の木があり、秋になると柿の実がたわわになります。青色から黄色、黄色からオレンジ色に実が熟れてくると、秋の深まりを実感します。ただ、どうやら渋柿のようで、熟れ過ぎて木から落ちると、潰れた実を啄む鳥たちが現れます。
 世田谷という街に住んでいますが、ふらりふらりと散歩などしていると思いがけず果物が生っている木に出逢うことがあります。柿、夏蜜柑や蜜柑、花梨…。その果実を収穫するためというよりも、庭や神社の境内や公園の隅っこの土塊(つちくれ)にたまたま落ちた種が偶然が重なって育ち、何年もかけて成育し、立派な木になったようで、都会の土塊にもしっかり自然が宿っているのだなぁと感心したりもします。
 山などに出かけると、同じく成育した果実を宿す木はありますが、私は、この都会の隅っこにこっそりとある土塊で育った果実のたくましさに、ある種の「美」を感じます。都会のなかにある、突然現れる野生の「美」なのかもしれません。我が家の借景にある果実は、今日もオレンジ色を濃くしながら、木枯らしを待っているようです。中嶋雷太

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