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私の好きな映画のシーン(42)『デッド・ドント・ダイ』

 ゾンビ映画好きとしては、ジム・ジャームッシュ監督の本作を見に行かねばと、2020年6月8日に映画館へ出かけました。今から思うと最高のタイミングだったのかもしれません。
 世の中は世界パンデミックだと騒ぎが始まっていました。細菌とウィルスの違いさえ理解できぬ大人たちの騒ぎは、現代日本のホラーコメディの様相を呈していたように思います。新型コロ●を怖がり騒げば、このウィルスが逃げるとでも言いたげな大人たちの姿も多々ありました。感染症という疾病は、淡々と理解し、淡々と発言し、淡々と対処するしかやりようがないのに。そんな日々が始まったなか、閑散とした映画館で観たのが本作でした。
 本作は、ゾンビコメディで、ストーリーは、ジャームッシュ監督ならではの、奇妙に捩れてゆく日常が描かれ、見終わると駅弁の隅っこにこびりつき、なかなかほじり出せぬオカズのカケラのような、心地良いイライラ感やザラザラ感が楽しめる作品でした。前年2019年に日本劇場公開されたゾンビミュージカルコメディ『アナと世界の終わり』(監督:ジョン・マクフェール)や『ショーン・オブ・ザ・デッド』(監督:エドガー・ライト)などの観賞後に残ったその味わいと似ていると思います。
 警察署長クリフ・ロバートソン役のビル・マーレイの脱力感と、巡査ロニー役のアダム・ドライバーのオタク感がなんとも言えず、さらに葬儀屋を継ぐ謎の女ゼルダ・ウィンストン役のティルダ・ウィントンの地球人離れした演技が、本作のクレイジーさをさらにグレード・アップしてくれます。
 ジャームッシュ監督が、好き放題に暴れ、観賞後には心地良いイライラ感やザラザラ感しか残さないという見事な映画でした。
 「なんか、ここにいること自体が、俺は間違いではないか」感たっぷりのビル・マーレーの演技は、やはり秀逸でした。破茶滅茶なのに、何故か惹かれる映画というのもたまには良いものです。中嶋雷太

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