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私の好きな映画のシーン(34)『オースティン・パワーズ』

 1980年代、バーなどで映画好きだという人たちと話をすると、苦虫を噛み潰したようなドロリとした表情を作りながら、ゴダールが好きだとかベンダースが良いだとかを言うスタイルが格好良いという風潮がありました。『ロッキー』や『スター・ウォーズ』や『ジョーズ』が面白いねとでも言うと、ハリウッド映画なんか!と良く嫌われていたものです。『ゴッド・ファーザー』の話を持ち出すと、イラっとして無口になるのを、楽しむ私でしたが。
 もちろん、ゴダールやベンダースも素敵な映画を製作され好きな作品も数多くありますが、個人的には良い映画であれば、良いじゃないかと考えています。人間には喜怒哀楽があり、その時々で、喜んだり怒ったり泣いたり笑ったりする映画があって良いからです。
 おそらくですが、いまでも、『オースティン・パワーズ』は面白い映画だねと言うと、「お前は映画を知らないよな」的な視線を浴びること請け合いです。特に映画フェチ的な方からはお馬鹿扱いされるはずです。
 で、私は、『オースティン・パワーズ』の底抜けな馬鹿さ加減が大好きです。
 突き抜けた馬鹿さ加減と突き抜けた明るさを、ここまで描いた映画は、なかなかないと思っています。
 この映画を見終わっても教訓的なものは何も残らないようですが、実は私が後生大事に抱えている硬直した考え方や既成概念に囚われた感覚をぶち壊してくれるのでたまりません。見終わり素に戻ると、大風邪を引いて完治した朝のような気分が味わえます。
 さて、私の好きなシーンですが、やはり「ミニ・ミー」をおちょくるタイミングは絶品です。そこには、完全無敵なお馬鹿さがあって、おちょくっているオースティン・パワーズ自身が一番馬鹿であるという構成がなんともいえず、関西風お笑いにも当てはまっているように思います。因みに「からかう」「馬鹿にする」「イジる」という言葉ではなく、やはり「おちょくる」という言葉がしっくりきます。
 話はズレますが、相手を馬鹿にしている者が、さらにお馬鹿であると言う、ある種自虐的なお笑いは、漫才の妙味につながるのかなと思ってもいます。主演のマイク・マイヤーズの『ウェインズ・ワールド』も、いつの日か、ここで取り上げたいと思っています。
中嶋雷太

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