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ビーチ・カントリー・マン・ダイアリー(14):「Tシャツ、半パン、そしてビーサン」

 いつも私見のお話を綴り、今回も私見のお話なのですが、1976年7月に雑誌「POPEYE」が創刊されてから、世の中の若者のファッションはガラリと変わったように思っています。
 この私もまた、それまでは、ファッション雑誌としては「メンズ・クラブ」ぐらいしか読むものはなく、アイビー・ファッションからヘビー・デューティーのファッションに惹かれていたのですが、いわゆるアメリカ西海岸カルチャーの明るくて陽気で、もっとカジュアルな感じをどこかで追い求めていた少年の私にとり、雑誌「POPEYE」は目から鱗で、かなりのカルチャー・ショックでした。
 もちろんヒッピー・ムーブメントがすでにありましたが、アメリカの本場ではない日本でのそれはどこか「重たく」感じていて、もっと普段着な感覚を無意識に求めていたのだと思います。この「重たく」感じていたというのは、おそらく形にハマる重さだったようです。現在とは異なり、日常生活でファッション情報を得るにはテレビかラジオか雑誌ぐらいのものでしたから、そうしたマスメディアからもたらされるファッション情報はとても大切なものでした。
 大学生となり、すっかりアメリカ西海岸ファッションにハマっていた私が、夏になるとこよなく愛したのが、「Tシャツ、半パン、そしてビーサン」というスタイルでした。あれから数十年、初夏の日差しが差し始め、最高気温が20度を超えると、ワードローブで眠っていたTシャツ、半パン、そしてビーサンを取り出すのが、夏を迎える恒例行事となりました。
 Tシャツはもちろん綿100%で、無地か左胸に気の利いたデザインがあるのが好きです。半パンはカーゴタイプに限ります。手に物を持つのをなるべく避けたいので、なんでもかんでもカーゴの六つあるポケットに仕舞えるのが便利ですから。そしてビーサン。ペタリペタリとだらしなく歩くのもまた格別です。
 毎朝、浜辺でコーヒーを飲み終えると、砂浜をゆっくり散歩するのですが、気づけば足元が砂だらけになります。少し疲れてくれば、砂浜から海岸通り沿いにある土手に座り、ビーサンを脱ぎ、裸足になって足を乾かします。夏日なら十数分も経てば足についた砂が乾燥し、手でサクサク払えば、砂が落ちます。ビーサンに付いた砂もパンパンと落とし、再びビーサンを履いて立ち上がり、海岸通り沿いのぶらぶら散歩を始めます。
 4月中旬の今ごろは夏日ではない日もあるので「Tシャツ、半パン、そしてビーサン」姿になれないこともありますが、三日に一日が、五月になると三日に二日となり、やがて梅雨寒を超えると毎日になります。
 今年の我が夏も、そろそろ顔を覗かせているようで、ビーサン焼けがくっきり足の甲に現れています。中嶋雷太

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