本に愛される人になりたい(88) 妹尾河童「河童が覗いたインド」
我が書棚に何冊の本が眠っているのか分かりません。2000年に、東京からL.A.に引越しする際、かなりの本を捨てたのだけれど、L.A.でもかなりの本を買ったので、東京に戻ってきたときにはプラスマイナスゼロ状態となりました。昨年10月に数十年住んだ世田谷から湘南・江ノ島に引っ越したときも、BOOKOFFにせっせと通い数百冊を売りましたが、状況はあまり変わらず仕舞いでした。
嬉しい悲鳴ではありますが、少しずつジャンルごとに整理していくと、自分の読書歴が垣間見えてくるので、それはそれで楽しいものです。
先夜、宮脇俊三さんの『インド鉄道紀行』を手にとりベッドに入ったのですが、本書を初めて読んだときよりもさらに面白くて、読み終わったころ、夜が明け始め、スズメがチュンチュンと鳴いていました。この「本に愛される人になりたい」の第85話に綴ったとおりなのですが、書棚に戻そうとするとその横のスペースにあったのが、横尾忠則さんの『インドへ』で、インドづいていた私は何も考えることなく、この『インドへ』を手にとり再読を始めました。第86話に綴ったとおりで、唐突なインドブームにハマった私がさらに手にしたのが、妹尾河童さんの『河童が覗いたインド』でした。
本職が舞台美術家で精緻なイラストが私を惹きつけるのですが、妹尾さんが覗いたインドの風景、そしてその風景を読み解く彼の深い知識は、そのまま日常性豊かなインド民俗学のようで、学ぶところが多々あり、一人インドブームの私は目から鱗状態となりました。
妹尾河童さんは、冒頭で語ります。
「『インドという国は…』などと、簡単には表現できません。だから『河童が覗いたインド』なのです」と。
もちろん、最初は、「そうなんだぁー」と思いますが、彼が事前に勉強してきた事柄が、その地に身を置き、ひとつずつ分かります。
日本に生まれ育っていても、この生真面目なスタンスは、有効です。
人によれば、日本人とは!とか日本国とは!と勇ましく発言する人を見るたび、「こいつ、まったく、分かってないよなぁ」と思うことがあるのと同じです。
本書の気持ちよさというか、素晴らしさは、一つ一つの現実を目の前にした妹尾河童さんが、その感情をなんとか言葉として捻りだすところではないかと思っています。
はぁ、この後は、堀田善衛さんの『インドで考えたこと』を読まねばなりませんが、それはそれ、読書の楽しみですよね?中嶋雷太
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