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不可思議なお話(9) 「遠野の女の子」

 2017年6月。遠野を巡る旅をしていました。柳田國男の「遠野物語」を初めて読んだのが20歳ごろで、それ以来、一度は訪ねたいと思いつつ、なかなか腰が上がりませんでした。
 新幹線で盛岡に着き、レンタカーで岩手各地を回り、ようやく遠野に行きつきました。宮沢賢治ゆかりの花巻市を経て遠野市に向かっていると、宮沢賢治や柳田國男の世界観がひしひし伝わってくる気がしていたのを覚えています。ま、勝手にイメージしていたわけですが…。
 やがて、遠野市に入り、あちらこちらと車を走らせ、観光名所になっている水車小屋に到着しました。
 緩やかな起伏をみせる稲田風景に、ポツリと立つ水車小屋は、観光用に綺麗に管理されており、少しだけ趣が失せていましたが、この稲田風景はなんとも美しく、ぼんやりとたたずんでは、あたりを散歩していました。
 すると、突然、3歳ぐらいのおかっぱの女の子が私の背後に駆け寄ってきて、「はい!」と小石を私にくれました。
 「ありがとう」と応えると、可愛い笑みを残し、走り去っていきました。
 何の疑いもなく、近所の子供なのだろうと思って、さらにぶらぶらと散歩をしていたのですが、ふと、どうも違うなと…。
 座敷童子ではないでしょうが、「あの女の子はどこへ行ったのかなぁ」と、今も、あの美しい稲田の風景を思い出すたび、あの瞬間を思い浮かべています。中嶋雷太

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