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ワードローブの森の中から(59)「カフスボタン。そして夢想ファッション」

 大学院を修了しサラリーマンになったころ、何種類かのカフスボタンを買い、会社に行くときはカフスボタンをつけていました。が、気づけば、カフスボタンをすることが無くなっていました。理由ははっきりしていて、私がブルックスブラザーズのボタンダウンのシャツが気に入り、すべてのワイシャツを破棄して、このボタンダウンのシャツを愛用し始めたからです。
 けれど、人間のサガなのでしょうか、街をぶらぶら歩いていて、たまに良いデザインのカフスボタンが目につくと買ってしまうわけです。ジッポーのライター、バッジ、ワッペン、ステッカー…等々。使わないのに何故か買ってしまうモノがありますが、カフスは今後二度と使わないにも関わらず買ってしまうわけですね。
 この数年は気が惹かれるカフスに出会うこともなく、私の心もようやく大人になったので、カフスが増えることはなくなりましたが…。
 我がワードローブをたまに整理していると、「あら!こんなのを持っていたんだ!」と我ながら驚き喜ぶことがあります。
 先日、ワードローブの隅っこから現れたのが、映画『エンドレス・サマー』のカフスでした。これは、私がロサンゼルスのウェスト・ハリウッドに住んでいたときに、メルローズかサンタモニカの雑貨屋さんで買ったものです。その頃には、すでにブルックス・ブラザーズのボタンダウンばかりを愛用していたので、実用性を伴うカフス愛はほとんど冷めていましたが、私の大好きな映画のポスターがカフスになっていたのと、かなり昔に作られたようで、レアアイテム感たっぷりだったので、思わず購入しました。
 その後、このカフスを袖につけたかというと、一度もつけてはいませんが、私の心の中のファッション・シーンでは、白い綿の長袖シャツにこのカフスをつけ、ジャケットは助手席に無造作に置き、カリフォルニアの海岸線(ハンティントン・ビーチあたり)をドライブしている私がいます。夢想ファッションというのも楽しいものですね。
 このように綴ると、まったくカフスとは縁が無くなったのかと言うと、唯一、タキシードを着るときだけは、必ずカフスをします。ただ、2019年11月にニューヨークで開催された国際エミー賞に審査員として参加して以来、約4年、タキシードを着ることもない日々となりました。
 久しぶりに陽の目を見たこのカフスを書棚の隅に置き、愛でていると、このカフスに似合う服装などを夢想しては喜ぶ私がいます。中嶋雷太

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