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私が書いた物語のなかから(13)「Yellow Rose's Tales - International Version」より

 昨年2021年7月、Amazon PODでデジタル発行したのが本作品でした。当初は、オーディオ・ドラマの企画があり、その為の書き下ろしでしたが、新型コロナ禍で思うようにならず、未だに眠らせている物語です。
 マンハッタンにある小さな花屋さんを巡り、ザラザラとした何でもない、四つの日常の「生」の物語が、やがて大きなひとつ物語として織り成される大人、そして大人になろうとする若い皆さんへの物語で、四つの物語のうちの一つが「ドリーム・ヒルズの子どもたち」(東南アジアのある町)です。

 ドリーム・ヒルズは東南アジアのある国の首都の外れの再開発地域に残された古い村だ。高層ビル群やモール施設のある区域、サンミゲル開発地域とは、コンクリートやトタン板で区切られ、出入り口には監視員が常駐している。ドリーム・ヒルズは、その名のとおり緩やかな丘を抱えた古い村だがが、第二次世界大戦後、職を失った者が集まりバラック小屋を建て、人口数万人を抱える不法地帯になっていた。ドリーム・ヒルズに生まれた者は、望んで生まれた訳ではなかったが、その運命を引き受けねばならなかった。
 午後、下校した子供達は、夕方から親の手伝いまでの数時間を、ドリーム・ヒルズのあちらこちらにある広場に集まり、フットサルやバスケットボールに汗を流し、いくばくかの時間でも、自分の運命から逃避しようとした。

 この一節を書くにあたり、私はある情景を思い出しながら、物語を書いていました。
 それはかれこれ数年前、フィリピンのマニラで開催された日本フェスティバルに参加したときのことでした。開発地域に建てられた豪華なホテルの一室に泊まっていたのですが、その部屋から下を覗くと、そこにはバラック小屋が延々と敷き詰められた町があり、そのわずかな空間に、バスケットボール・コートがあり、子供たちが遊んでいるのが見えました。
 埃と汗の世界。
 貧しくても、毎日をなんとか生きようとする力が、東南アジアの熱い日差しに輝いていました。
 それは、ある種の既視感でもあり、私が子供だった昭和の中頃の大気と同じものを纏っているようでした。
 明日さえ見えぬ生活があります。
 それは、とても乱暴ですが、それを受け止めざるを得ない子どもたちがいて、アスファルトさえ敷かれていなかった通りで遊んでいた私もまた、その乱暴な時代を汗と埃に塗れて生きていたのだと思います。
 ただ、一度きりの人生であること。
 辛くても、生きていることの、輝きが、筆(PC)に込められればと願い、この一節を書きました。中嶋雷太 (「Yellow Rose's Tales - International Version」はAmazon PODにて購入できますので、ぜひお読みくださいませ。Yellow Rose's Tales - International - https://amzn.asia/d/2YCkfNW)

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