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私の美(35)「降下風景-降下中の飛行機の窓から…」

 ひと言で何と言えば良いのか、まだ適切な言葉が見つかりませんが、飛行機が着陸態勢に入り、雲を上空から下へと突っ切りどんどん降下してゆくと、やがて地上の風景が現れ、さらに降下して間もなく空港という瞬間に見える窓からの眺め、がなんとも言えず良いなぁと思います。これをひと言で言えるようになればと願うばかりですが、ここでは「降下風景」とでも暫定的に言っておきます。
 これまで、国内外の飛行機に何百回と乗りましたが、長距離飛行の後の降下風景ほど惹かれるものはありません。経験した降下風景のなかから敢えて三つ挙げると、第三位はスペイン・バルセロナ空港、第二位はスイス・ジュネーブ空港、第一位はニューヨーク・JFK空港です。
 先ずスペイン・バルセロナ空港です。大抵、フランスのシャルル・ド・ゴール空港かドイツのフランクフルト空港を経由してバルセロナ入りしますから、バルセロナ空港までの飛行時間は数時間です。けれど、日本から12時間以上のフライトを経てようやく目的地入りということもあり、早くホテルに入って疲れを癒したいというモードに入っています。ピレネー山脈を越えバレアス海(地中海スペイン西岸の海)沿いに南西に飛ぶと、色調が煉瓦色の家々が整然と居並ぶバルセロナの街がやがて見え始めます。見事なまでに内庭を設けたこの街並みは驚きです。飛行機が最後の着陸態勢に入ると、街中に小さなタケノコのようなサグラダ・ファミリアが確認できます。その瞬間、バルセロナという街の日常がグイッと私の中に広がり、私は着陸前からバルセロナの街中に入り込みます。セルベッサ・カタルーニャでのビールとツマミの数々、旧市街での黒鮪の握り、古い市場のメルカット デ ラ ボケリアでの軽食…。あの降下風景の醍醐味は何とも言えず興奮します。さて第二位のスイス・ジュネーブ空港の降下風景です。この空港に降下するのは何故か冬ばかりなのもありますが、風景というよりも降下途中の降下風景が好きです。と言うのも…。東京から十数時間のフライトを終え、雲の上を飛んでいた飛行機が雲の中に突っ込むように降下します。さてと間もなくだと思っていると、雲を突っ切ったのに再び雲の上になります。つまり、雲が分厚い二層になっているわけです。次の下層の雲の上を飛んでいるときは、雲のサンドイッチの真ん中の空を飛んでいるわけですね。しかも、その下層の雲はどんよりとした見るからに冬の雲で、これから寒ーいジュネーブの冬だからなと、冬の悪魔の囁きさえ聴こえてきそうです。やがて、飛行機は果敢にもどんより雲の中に翼を揺らしながら突っ込んでゆきます。やがて、どんより雲の下に、冬のジュネーブの街並みが見えてきます。それはとても突然で現れる感じです。一度は、プライベートで、地元でしか味わえない白ワインを楽しみたいものですが、今のところ仕事以外でこの地に降りたことがありません。さて、第一位はニューヨーク・JFK国際空港です。写真は、まさにJFK国際空港へとランディングしようとするところです。仕事でもプライベートでも、何十回となくJFK国際空港に降り立ってきましたが、マンハッタン島かクイーンズかブロンクスにしか行ったことがなく、眼下に見えるロングアイランドに行く機会を失しています。降下風景の楽しみの一つは、眼下に見える街ではどのような暮らしが営まれているのかを想像することです。あの海沿いの家ではボートを係留しているから、休みの日には海に出るのだろうかとか、車ですぐのところにある、あのモールで買い物だなとか、近くに良いバーはあるのだろうかとか…。余計なお世話の想像も楽しいものです。
 以上、降下風景という美に魅せられた一人の降下風景ファンのお話しでした。中嶋雷太

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