見出し画像

音楽があれば(5)ジョン・デンバー「On the Road」

 1970年代後半から1980年代前半はアルバイトとバイクと音楽に浸っていました。その一部の音楽について振り返ると、ウォークマン(1979年発売)前史と後史にはっきり分かれていたようです。
 ウォークマン前史では洋楽LPばかりを楽しんでいました。楽しんでいたジャンルは、クイーン、ビリー・ジョエル、アース・ウインド&ファイア、スティービー・ワンダー、マイケル・ジャクソン…。なんでもありな感じで貪欲に洋楽を楽しんでいました。
 今回はそのウォークマン前史にある、ジョン・デンバーの「On the Road」のお話です。
 ジョン・デンバーと言えば「Country Road」や「Sunshine on My Shoulder」がCMに使われ有名でした。最初は軟弱な感じがしていたのですが、ある日「Country Road」の歌詞をしっかり読むことがあり、目から鱗でした。炭鉱の煤が舞う西バージニア州へと向かうベトナムからの帰還兵の心情がそこに歌われていました。
 「炭鉱の街に住む彼女は、青い海など見たこともなく、暗くそして煤で汚れた空の下…」
 後日、ある日本の有名アニメ映画でかなり異訳されて歌われた時には、換骨奪胎したその異訳に憤慨さえしたものです。
 その歌詞が孕むベトナム戦争の影に目を見開いてから、機会あるごとにジョン・デンバーのLPを買って聴くようになりました。
 そして出会ったのが「On the Road」という歌でした。
 父と息子が、行き先のない車の旅に出る歌で「We didn't know who we were, we didn't know what we did. We were just on the road…」という歌詞に、惚れました。
 「1958年の頃」と歌詞の出だしにありますが、その父親が何をする人物かは描かれてはいません。恐らく仕事もなく、人生の再出発を願って息子と車の旅に出たのだろうと想像していました。
 インターネットなどないウォークマン前史の当時、ジョン・デンバーの歌についての一般的な情報などほぼ皆無で、LPのライナーノーツと、歌詞から読み取れる世界だけが頼りでしたが、今から思うに、高校生の私が懸命に想像を膨らませ、彼の歌詞を解釈しようと試みたあの日々は、歌と私の人格がとても身近にあったのかなと思います。
 今も、ドライブに出かけるとき、この「On the Road」をかけながら、私は先の見えぬ父親になり、ステアリングを握りしめています。 中嶋雷太

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?