見出し画像

だんだんと、私は私の中へ堕ちていった。

ザッザッという足音。

異常に荒い自分の息遣い。

破裂しそうな心臓の鼓動。

土で汚れたスニーカーと地面。

たったそれだけの世界。

それだけの世界で、私は生きていた。


止まりたい。苦しくて。

でも、止まったところで?誰かが私を負ぶって運んでくれるとでも?

止まったところで。

ただ、時間が過ぎて。そして、しばらくして、

再び歩き出すだけではないか。

また苦しむだけ。それだけのこと。

止まることに意味などない。

「苦しい」「つらい」と泣き言を言ったとて解決などしない。

ただ登る。

ただ、苦しんで登る。

それだけが自分を助ける行為なのだ。


だんだんと、私は私の中へ堕ちていった。



この山を登ることに意味があるのか?

私にはわからない。

登った先に目的地があるから、登っている、それだけ。

なんでそこに行こうと思ったんだっけ?

もう、忘れてしまった。

決めた時には強い想いがあったような気もするけど。

でも、登山がこんないつらいと知っていたら。

私は登っただろうか?


知らなかったんだ。

知らなかったんだよ。


この世に生まれてくるときには、

人生がこんなにつらいなんて。

わからないまま生まれてきて、

気づいたときには引き返せないところにいる。

苦しいから止まりたいんだけど、

止まったところで意味がないから。

進むしか、意味がないから。

進むしか、意味がないなら?


進むことにだけ、


意味があるのか?








いきなり、目の前が明るくなった。

土色の視界がいきなり、緑と光の色になって。

顔を上げると、木々が見渡せる場所だった。

うつろに先へ視線を向けると、

その場所から先の道は下り坂になっていた。


少し

希望が見えた気がした。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?