気配
私は大学時代、心理学部の精神分析ゼミに属していた。かの有名な『フロイト全集』の解読に四苦八苦しながら(ほぼ解読できなかった)、心理学の父フロイトの世界に浸かっていた。
しかし4年生で取った「認知行動療法」の講義にブラックホールかのごとくものすごい引力で引き付けられる自分に気が付いた。
過去に遡って原因を突きとめ、その原因を知覚することで問題解決を目指す精神分析療法とは真逆の性質をもち、
人は誰しも物事に対する認知の仕方にクセがあるとし、その認知のクセと行動を変えることにより問題解決を目指すのが認知行動療法だった。
今でこそポピュラーになり多くの人が認知している心理療法だが、私が学生であった13年ほど前は今ほど有名ではなかったと思う。
「なんて実践的でシンプルな療法なのだろう」
私は感嘆した。正にアメリカ的というか……
2021年現在も売れに売れている『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)の大きなメッセージでもある「過去は変えられる」。
”今、ここで” 私が認知を変えることによって
”今、ここで” 私が思考を変えることによって
ただそれだけで過去も未来も現在も、世界すべてが変わる。
実際に2020年12月に私の世界は一気に変わった。
”感謝を軸に生きる” と思考を定め行動を変えたことによってエゴの手放しが進んだ。
もちろんポイッはい完了。などと簡単にいくはずもないが、今私はエゴに飲まれそうになる度に「ありがとう」を唱え、自分の中心へ帰れるよう努めるようになった。
”あの台風の日を思い出せ” を合言葉に。
年末年始は歌番組やカウントダウンライブ、テレビ番組チェックなど、本来オタ活に忙しくなる時期であるものの、
夫と子ども2人が同時に胃腸炎になり看病に忙しく、ほとんど視聴できなかった。でも結果的にはそれでよかったのだと思う。一度冷静になって考えるよう、促されていたのだろう。
3が日が明けた頃今度は私が胃腸炎で倒れ、それこそオタ活どころではなくなった。(余談だが生まれて初めて隣の部屋からトイレまでたどり着けず、AM 2:00 にトイレの前で倒れたまま弱々しい声で
「パパぁ~……パパぁ~……」
と呼ぶ経験をした(笑)。普段は爆睡の夫なので私はこのままトイレの前で死ぬのか……とかなり本気で覚悟したが、奇跡的に起きてきてくれて助かった)
いつもは胃腸炎では熱を出すまで至らない私が、今回は38度を超える熱を出し、全身激痛、コロナの恐怖もあり布団の中でウンウン唸る日がまる2日続き、心身共にボロボロだった。
唯一の心の支えはYouTuberのカードリーディング動画をみることだった。
占星術動画から見つけたタロット・オラクルカードリーディング動画は病によりカオスの中に再びはまり込みそうになる私を癒してくれた。
「何よりも大切なことは、自分を大切にすること」
「あなたはあなたらしく、あなたの選択をして生きて」
そこには常に「愛」と「感謝」を持つこと。
まずは自分を愛すること。傷ついてしゃがみ込むインナーチャイルドを愛すること。
私は今まで自分を傷つけてきた。エゴを放置し暴れるがままにし、「対峙」ではなく「退治」することに執着をして戦ってばかりいた。
負ければ自分を責め、人と違う自分を価値のない人間だと決めつけて生きてきた。みんなのようになりたいと、みんなと同じようになりたいと、ならなければいけないと……。
インナーチャイルドの泣き声に全く気がつかなかった。
その状態では世界が地獄にしか見えないのは当然だ。いくらだって落とし穴に落ちる。そして誰かに引き上げてもらうのをただひたすらに待つだけ。真っ暗な穴の中で、何かを恨み、誰かを恨み、待ち続けるだけ。
自分で這い上がる方法を知ること。
それを知れば、誰を頼ることもなく「自分で」這い上がれる。
いつでも。
私は、スピリチュアルの世界に出会って大切なことに気づくことができた。
世界が変わった。
今までは目を瞑っていたのだ。目を瞑ったまま同じところを何度も何度もぐるぐると回っては落とし穴に落ちる人生を繰り返してきた。
ある台風の日に私を穴から引き上げてくれたのその人は、そのまま私の手を引いてこの場所まで連れてきてくれた。
薄目を開けた私。目の前に広大な景色が見える。
手にはもう、誰の手も繋がれていない。
ここからは自分の足で、自分の力で、自分の目でしっかり見て歩くのだ。
行ってみたい場所がある。見てみたい景色がある。
遠くにぼんやり見えるあの丘だと思う。
まだ周りはよく見えないけど、
今も変わらず、
その人の気配は、ちゃんとある。
マガジン全12話、完。
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