そこにないものを隠すのが一番難しい。――エリック・ホッファー
7月4日、トマス・J・レナード、バイロン・ローソン共著『selfish』読了。
おもしろかった。私の大好きなジュリア・キャメロンの『あなたも作家になろう』と似たものを感じた。
Selfishつまり「わがまま」になろうという趣旨のこの本。日本人には特にかなり難易度が高い話だと思う。しかしトマスは言う。
現代はセルフィッシュになることが許されている時代である。
と。はるか昔人間が群れをなして部族として生活していたころ、生活すべてが共同作業で行われていた。自分のことしか考えない、過度に自分本位なものは群れにとっての危険分子とみなされた。
しかし今は違う。
今はむしろセルフィッシュになることが必要なのではないかと説く。
人はセルフィッシュになることで、自分ならではの技能や才能を高めていくことに専念できる。個人にとっても社会にとっても、セルフィッシュになることこそ、最も良い結果を生むのだと。
ただ、「正しいセルフィッシュのなり方」を心得ている人は数少なく、むしろ大多数の人は自分の欲求、自分の要望、本当の自分を隠して社会生活を営んでいる。人々は「間違ったセルフィッシュ」を体現している人を見た、もしくは実際にそういった人に迷惑をかけられた経験から、「自分はセルフィッシュになってはいけない」と思い込んで生きている。
そういう多くの人々に「正しいセルフィッシュのなり方」を教えるのが、この本の役割だ。
とにかく「ありのままの自分でいい」、ということが強調されてる。偽りの自分で生きていると、欠乏感や欲求不満や未来への過度な期待や不安や失望といった、様々なネガティブな要素が生まれてしまう。それらは偽りの自分でいる限り蓄積し続けて他人に八つ当たりしたり嫉妬したりして、負の連鎖を生む。
「いつも迷惑をかけられるのだけど、なんか憎めない」という人がいる一方、「要領よく立ち回りなんでもこなしてしまうのだけど、なんか好きになれない」人もいる。
その違いは心の中心がクリアなのか濁っているのかではないかと私は思う。
ありのままの自分で生きると心の中心の透過度がどんどんと上がってくる。
本心を言っている(もちろん言い方には気を付けて)なとわかる人は信頼できる。その内容に異議があったとしてもだ。その人が話し終わった後に疑問をぶつけてみよう、という気になる。きっと手ごたえのあるリアクションをしてくれて、良いディスカッションができると予想できる。
そんな雰囲気も含めた誠実な人格を形成する最も重要な要素、「セルフィッシュ」わがまま。自分本位。自分を思いっきり甘やかし、自分の心の声に思いきり耳を傾け、不要な人間関係やものを思い切って捨てる能力。自分を受け入れ他人を受け入れ、流れに抗うのではなくうまく乗る。自分を真空状態にして自分が望むものを引き寄せる。感受性を磨く……
1998年に初版が発行された本書は巷ではやっている自己啓発本の先駆けと言われている。ありとあらゆる自己啓発本を読んでは、その時だけやる気になり、1週間もするとまた別の自己啓発本を買いあさっている……なんて人にこそ、おすすめしたい。
「とにかく肩の力を抜けよ」
「何もしようと思わなくていい」
「がんばると何もうまくいかないよ」
読書中、ずっとそんな言葉をかけられている気分だった。「力み」がすう~っと抜けていく感じがした。
実は私は半分ほど読んだところでとあるコンペの結果発表があり、5日ほど読書を中断していた。コンペは3日かけて4位から順に発表されていった。発表の2日前から私は変に力んで居ても立っても居られない状態だった。食事も喉を通らず、日常の家事さえ手が震えてままならないほど。一日の大半をソファか布団の上で過ごすという、まさに病人さながらだった。
結果、受賞を逃した。
受賞を逃したショックもかなりのものだったが、自分がこんな状態になってしまうことの方がもっとショックが大きかった。
私は本当は何が欲しいのだろう、と純粋に疑問に思ったのだ。
「賞」を通して私は何を手に入れたいと思っていたのだ?
きちんと向き合わなければならないと切実に思った。
その後開いたページには
自分の醜悪さではなく空虚さを隠そうとするときに、私たちは最も自分を偽る。そこにないものを隠すのが一番難しい。――エリック・ホッファー
と書かれており、その後の読書がはかどったことは言うまでもない。
力まずに、ありのまま。
本の帯にもあるが、「自分本位。それがいちばん利他になる」。
多くの人が豊かな人生を送れますように。
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