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GeneSourceTree -6

第六話 ナチュラル・セレクション

 シュウイチの第一印象はか弱そうな男の子だ。だけれど知れば知るほど、その印象は溶けていった。
 ある日の夕食の時。こんな会話があった。
「僕らの世界はもっともっと複雑になっていく。それと一緒に悩みはどんどん理解しづらくなってきてる」
 僕は言った。それにシンゴが同調した。
「確かにむかしの人たちに比べて、僕らの悩みはものすごく理解しづらくなっているね。100年前の人たちが僕らの悩みを理解する為には、強力な共感性と知性のアップデートを10回はしないといけない」
 彼は冗談っぽく言った。そんな話をしていた時にシュウイチは言った。
「悩みか……」
 ハルが反応する。
「どうした?」
「悩みなんてないなって思ってね。みんなはあるの?」
 僕らは全員黙った。
 この社会。全員が平等に才能を与えられるこの社会。常に人と比べなければいけない社会。多様性があるふりをして、ただのステレオタイプになるこの社会。
 悩みがないわけがない。ずっと自分が何者かでいなければならないというプレッシャーと戦わなければいけないのだ。少なくとも、僕はそうだ。
 トウマはシュウイチに突っかかる。
「おいおい。お前はアップデートをしたことがないんだろう?そんな奴に俺たちの気持ちがわかるわけない」
「トウマ。アップデートしようがしまいが、そんなこと関係ないでしょ?どっちにしたって人の気なんて知れないよ」
「ふざけんなよ!お前は劣ってるって言ってるんだ。俺たちと落ちこぼれのお前を比べるんじゃねえ」
「本当に自分が優れてると思ってるなら、僕のことを落ちこぼれとは呼ばないでしょ?」
 トウマがシュウイチにとびかかる。僕とハル、シンゴでトウマを抑えた。シンゴはスポーツ選手なだけあって、かなり膂力がある。だから一人でもトウマを抑えるのに問題がないほどだったが、思わず僕たちも止めに入ってしまった。僕らの冷静な思考を吹き飛ばすほど、トウマの怒りはすごかった。
 僕はシュウイチを見た。
 シュウイチは全く動じた様子を見せず、コーヒーに口を付けていた。
 
         ◯

「僕さ、必死で勉強したよ。
 知識を暗記したって、この世界じゃ意味なんてないけど、でも必死で勉強したんだ。
 そしたらさ、そこに神様がいたんだ。
 神様がいるって思ったんだ。
 戯言だと思う?
 僕はもらった体で人生を全うしたい。
 どうして、そんな当たり前のことを肯定されないんだろう。
 昔はピアスを開けたらこう怒られた。
 親からもらった体だって。
 僕らはナチュラル・セレクションでつくられた。
 それは神様からひとつづきだったはずだよね?
 それなのに。どうして。どうして。
 僕だけじゃ、僕だけの資質じゃ、もう誰にも敵わないよ。
 誰に認めて欲しいわけじゃないけどさ。
 僕ですら僕を認められやしない。
 神様。あなたはどこにいるんですか。
 本当にあなたがいるなら。
 どうか、僕に僕を認めさせてください」

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